生徒の自由な発想を大切に
楽しく、理系への興味を引き出す
恵泉女学園中学・高等学校(東京都)

中学3年生で行う、定評のある理科プログラム「探究実験」
「世界に目を向け、平和を実現する女性を育てる」という教育理念のもと、確かな学力と人間性、自ら考え発信する力を育んでいる恵泉女学園中学・高等学校。
近年、理系進学者が増えており、同校の「女子が理科好きになる」取り組みに注目が集まっている。夏休みを使った「理科好き増やそうプロジェクト」、2ヵ月かけて行う中3の「探究実験」、より深い研究に挑戦する「サイエンスアドベンチャー」など、生徒の好奇心を刺激するプログラムを紹介する。
「理科好き増やそう!」
全学年対象のプロジェクト
生徒の理系への興味を広げるため、様々な取り組みを行なっている恵泉女学園。5年前からは「理科好き増やそうプロジェクト」がスタートした。
このプロジェクトは自由参加で、中学1年生から高校3年生まで全学年の生徒が、同じテーマに取り組む。これまでに「エッグドロップコンテスト(限られた材料を使い、生卵を割らずに落下させる)」や、ミョウバンの結晶づくり、紙飛行機の滞空時間競争などを行なってきた。生徒は夏休み中に研究を重ね、夏休み明けには発表会が開催される。
「このプロジェクトに、多いときは100名近い生徒が参加します。本校は、生徒の自主性や個性を重んじる学校。興味を持ったことには積極的に参加する生徒が多いんですよ」と理科教諭の田中裕大先生。
普段の理科の授業でも、中学1、2年次に年に20回以上実験を行うなど、日頃から実験や観察に親しんでいる生徒たち。校内には生物2、化学2、物理1、地学1と実験室が6つもあり、なかでも地学室はプラネタリウムも見られるなど、充実した設備が整っている。
「理科好き増やそうプロジェクト」では、生卵を割らずに落下させる、エッグドロップのコンテストを開催。紙などで落下装置をつくり、ベランダから落とす実験に、全学年の有志が参加した
味噌の香りがするカイロ?
型にはまらない「探究実験」
恵泉女学園で生徒から絶大の人気を博す理科プログラム、中学3年生の「探究実験」。1〜2月の理科の授業時間をすべて使い、自分たちで実験方法を組み立てて結論を導き出し、プレゼンテーションまで行う、中学の理科学習のクライマックスだ。
生徒は10ほどのテーマの中から好きなものを選び、同じテーマを選んだ生徒同士でグループをつくる。「基本的な実験方法は教えますが、テーマをどう掘り下げて実験をするかは生徒たちに任せています」と田中先生。
あるグループは「雪の結晶づくり」をテーマに選んだ。実験の手引き書には、雪の結晶ができるのは、雲の中で雪の元になる「氷晶(ひょうしょう)」ができるのが–40℃付近だと書いてあった。しかし、もっと寒い中でも氷晶ができるのでは? と考えた生徒たちは、–100℃以下でも氷晶ができるのか挑戦した。
「–100℃以下の状況は、地球上の自然には存在しません。だからこそ、実験してみたい、地球にはなくても他の惑星にはある、というのが生徒たちの発想なんです」
「使い捨てカイロの改造」というテーマでは、あるグループは「香り」に着目。「日本人が落ち着く香り」ということで、選んだのは味噌や醤油の香りだ。使い捨てカイロは鉄の酸化反応等の際に放出される熱で温かくなるが、酸化に使う食塩水を味噌汁に変えて実験。本当に味噌の香りがするカイロが完成した。
「可能か不可能かはさておき、まずはどんな実験がしたいか生徒同士で自由に話し合いをさせます。ここでは教員は何も言いません。そうすることで、さまざまなアイデアが生まれてきます」と田中先生。もちろん、すべての実験がうまくいくわけではない。そんな時は「失敗は、終わりではない。何が原因で仮説どおりにならなかったのかをまとめて発表しよう」と伝えている。
さらに研究を広げたい生徒は、課外活動の「サイエンスアドベンチャー」に参加することもできる。「化学」「生物」「物理」「コンピューター」の4つの班に分かれており、それぞれの分野で学外での発表会にも参加。研究成果は学内でのサイエンスデーでも披露している。
(左)「探究実験」では実験方法を考えるのは生徒たち。力を合わせて試行錯誤しながら取り組む
(右)年に一度開催される「サイエンスデー」では、探究実験の成果を発表する
ICTスキルや
情報リテラシーも学ぶ
この探究実験は、ICT教育としての役割も果たしている。生徒は校内のパソコン「Chromebook」を使い、「スライド」というアプリを用いて実験結果をまとめ、プレゼンテーション用の資料を作成する。
「将来社会に出たとき、パソコンで表や資料を作成する能力が必要になります。ただ実験するだけでなく、そうしたICTツールを使いこなせるようにも指導しています」と田中先生。
生徒たちがつくるスライドの完成度は年々レベルアップ。写真だけでなく動画を撮影し、わかりやすく編集して並べ替えたり、動画の中から写真を抜き出したりと、柔軟に使いこなしている。
さらに早い段階から情報リテラシーについて理解することを目的に、高校で行なう情報Ⅰの授業を前倒しして、中学3年生で学んでいる。
「今後、大学の研究室への訪問や、サイエンスデーでの専門家の講演も行っていきたい」と話す田中先生。「理系のハードルは高くないということを生徒に知ってほしいですね。理系の人はどういうところに就職するのか、関心のある生徒も多いので、理系・医歯薬系大学に進んだOGに来てもらい、将来どんな仕事につながっていくのかも話してもらえたらと思っています」
理系大学を選択する生徒も年々増加傾向にあり、現在4割ほどの生徒が理系を選択している。生徒の自由な発想を伸ばす校風の中、理科好きの芽がすくすくと育っている。
恵泉女学園中学・高等学校 https://www.keisen.jp/
過去の記事もご覧になれます