マナビネットオープンスクール2024 ●掲載:塾ジャーナル2024年11月号/寄稿:校長 河合 孝允

本校の防災・平和教育について
駒込中学校・高等学校

「学校防災」の基本的視点

私学は生徒の「生命・身体の安全・安心」が保護者との法的契約の下に担保されなければならない教育機関です。その不履行に基づく賠償責任は「民法第415条」の「債務不履行」並びに「第709条」の「不法行為」によって司法判断の対象となります。その判断事由は以下の場合です。

①生徒の生命・身体の安全配慮義務を怠った場合
②予測し得たはずの危険予見ならびに危険回避義務を怠った場合
③危険行為を適切に指導ないしは制止せずに被害が生じた場合
④指導監督をせずに被害が生じた場合

これらに関する司法判断は一律的なものではなく、事故時の状況、生徒の行動・態度・年齢・判断能力、予測される障害の種類ならびに程度等が総合されて判断されます。精神年齢の未熟な中1生徒と18歳成人年齢に達した高3生徒とは同列には扱われません。

したがって高3生への指導マニュアルを中1生に機械的に適用し事故が発生した場合、その瑕疵責任は免れないことになります。よって教員は、生徒の個別年齢・個別身体状況にあわせた指導を的確に行うことが求められます。その教員個人の経験や勘に基づく一方的な自己判断は、事故が発生した場合、法定義務違反や過失責任として処断されることになります。

また、問われるのは事故発生時の対応だけではなく、学校組織として、事故を未然に防止するために「講じるべき注意義務」を日常的にどのように履行してきたかが問われます。どのように「防災訓練」を行い、「自校独自の防災マニュアル」を作成・運用してきたかを問われるのです。

近年の司法判断において顕著なのは、「学校責任」と「当事者責任」が「行政罰」・「刑事罰」の両者においてそれぞれに適用されていることです。天候が急変して落雷を受け、生徒が甚大な被害を被った場合、学校責任だけでなく、監督指導をしていた顧問もまた多額の賠償責任を負う時代になっています。

リスクマネジメントと
クライシスマネジメント

現在は以前と異なり「学校保健安全法」が施行され、その「第29条」に「安全対策のマニュアル整備」が学校に法的に義務付けられています。そしてこの安全対策には、施設・設備の安全管理が為されているかどうかが含まれます。

防火シャッターが瞬時に作動するかどうかだけではなく、周囲に器物が放置されていないかどうか等、安全性を保つ「保守管理」を怠らないことが求められています。

また生徒に対し、学校施設設備を安全に使用するように日常的に指導しているかどうかも求められています。「リスクマネジメント」とは、ひと言でいえば、「未然防止」ということでもあるのです。

ところで、危機管理としては、「発生後にどのような迅速対応を行うか」も策定されていなければなりません。これを「クライシスマネジメント」といいます。本校は文京区と防災協定を結び、近隣からの避難所としています。また近隣町内会とも協定を結び、緊急避難時の入校を許可し、緊急通用門の合鍵を渡してあります。

避難時に必要な「水・食料・医薬・ブランケット・生活必需用品」も行政側と協定書を交わして整備しています。災害は登下校中も含め、いつ起きるかわかりません。本校では「安否確認メールアドレス」を用いて、本人の安否や家族の安否・避難場所が検索できるようにしてあります。

また生徒には「災害用伝言ダイヤル171」の活用方法や、災害用ブロードバンド伝言板(web171)の使い方等を指導しています。

本校では毎年、「夏期教研」を実施しています。今年も8月30日、講師をお招きして全教職員による「防災ワークショップ」を実施しました。防災は夜間警備と同じで蓄積はできません。

その日、その時、その瞬間に機能しなければ、過去のデータも実績も意味をもたないのです。必要なことは「生徒が死なないための学校づくり」を行うことです。

「#あちこちのすずさん」と平和教育

戦後80年近くが過ぎ、戦中体験者も少なくなる中、NHKでは特集番組を組んで放映をしました。それが2022年の「戦時中のくらしのエピソード」を紹介し、戦争を伝承していく番組「#あちこちのすずさん」でした。

全国からいくつかの学校が選ばれ、戦中体験者からの聞き取りが行われました。本校もその中の1校として、東京大空襲の体験者からの聞き取りを行いました。

その聞き取りに応じてくれたおひとりから丁寧なお礼状が届いています。「これまで、あの日のことは誰にも語ってこなかった。しかし、若い高校生の訪問を受け、長い間胸に秘めてきた想いを述べることができた。素晴らしい学校ですね。ありがとうございました」と結んでありました。

以来4年間、本校の国際教養コースの生徒たちは「戦争を次の世代に伝えて行く活動」を続けています。たとえば、戦時中の主食のひとつであった「楠公飯」を実際に作って試食したり、地域の小学6年生を対象に「ウクライナへの軍事侵攻問題」を中心に「平和とは何か」を考えてもらうワークショップを開催したりしています。

これからの生徒は「混迷の国際社会」を生きていきます。本校はその激動の時代のリーダーたちを、静かに、そして確実に育て上げていきます。「#あちこちのすずさん」のように!


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