マナビネットオープンスクール2021 ●掲載:塾ジャーナル2021年7月号/取材:塾ジャーナル編集部

コロナ禍でも、生徒の夢を消さない
留学に代わるプログラムで国際理解教育

恵泉女学園中学・高等学校

日本に留学中の大学生をグループリーダーに迎えて行なった「エンパワーメントプログラム」。多様な国々から来日している留学生から、生徒は大いに刺激を受けた


コロナ禍の影響で、留学や海外校への訪問を取り止める学校が相次いでいる。恵泉女学園中学・高等学校も、2020年度は、従来の形での留学・交流プログラムを中止。しかし、すぐに代替プログラムを立ち上げ、同校の教育の柱の一つである「国際」(国際理解教育)の歩みを止めなかった。
すでに5月から今年度のプログラムが始動。withコロナ時代、どのように異文化を理解し、国際交流を進めるのか。その最先端を走る同校の取り組みを取材した。


留学できない!
生徒のために教員が動いた

「新型コロナウイルスの影響により、留学を目指して頑張ってきた生徒たちは、高校時代に一度しかないチャンスが失われてしまいました。私たち教員は、なんとか代わりになるものができないかと、代替プログラムを模索しました」と、英語科の花岡尚子先生は話す。
 毎年8月に実施していた、アメリカの女子大学生との「エンパワーメントプログラム」は大学生が来日できなかったために、日本国内で学んでいる留学生を招いて実施した。国際交流主任で英語科の飯田絢子先生は、それがかえって、生徒への良い刺激になったと話す。

「来ていただいた留学生は、アフリカやアジア出身の方が多く、自国の発展のために、日本に学びに来ている方ばかりでした。勉強の目的がはっきりしていて、学びへの姿勢は真剣そのもの。以前は女子大学生だけでしたが、男子の学生がいたのも新鮮だったと思います。彼らにとっても英語は第二言語で、生徒たちは英語ができると、様々な国の人とコミュニケーションが取れるということを、より実感できたようです」

さらに、中止になったオーストラリアへの2ヵ月の中期派遣留学プログラムの代わりに、「スプリンググローバルプログラム」を春休みの3日間を使って実施した。
参加したのは中3と高1の有志生徒15名。提携校の「Fairholme College」の日本語の授業に参加したり、ホストファミリーにはオンラインで家の様子を教えてもらうなど、限られた時間の中でも国際交流を体験することができた。

こうした代替プログラムに参加した生徒からは「オーストラリアにターム留学する予定だったけれど行けなかったので、海外の同世代の生徒との交流が初めて経験できて興味深かった」や、「英語力だけでなく、周りの友達と助け合うことの大切さや、間違えることは恥ずかしいことではなく、勇気を持って話すことの大切さを知りました」などの感想が寄せられた。
 「必ずしも英語が得意ではない生徒も、実際に英語を使って問題解決策を考える体験をし、英語学習へのモチベーションが上がったようです。普段は部活動などで留学を選択できない生徒も、3日間のプログラムなので参加できたというメリットもありました」と花岡先生は話す。

新しく始まる
「Global Spark Program」

今年から新たにスタートしたのは「Global Spark Program」だ。5〜7月と11月〜翌1月、各期間中の土曜日に5回ずつプログラムを実施する。
クラスは、ビギナークラス(中1・中2対象)とアドバンストクラス(中3〜高2対象)の2つ。部活動と両立できるよう、午前と午後同じ内容を行い、どちらか選べるようになっている。

講座は、生徒6〜7名に留学生1名が入り、英語で自己紹介をしたり、留学生の国について質問をする「グローバルセッション」のほか、「バーチャル・ホームステイ」も企画されている。
「バーチャル・ホームステイ」のビギナークラスでは、カナダのホストファミリーとリアルタイムにつながり、ホームステイ先ではどのように自己紹介をしたらいいか、家庭のルールはどんなものがあるかなど、海外での生活を「プチ体験」する。

アドバンストクラスでは、海外の高校生または大学生との「バディチャット」を体験。実際に現地校を訪れたかのように、学生同士で自己紹介をしたり、学校生活について会話をする。
さらに、SDGsを正しく理解するための講座も用意。今回は「貧困をなくそう」をテーマに、ケニアで活動していた日本人講師のプレゼンテーションを聞いた後、留学生を交えて「今、私たちにできることは何か」をグループで話し合う。

エンパワーメントプログラムも昨年同様に実施。
「この中のアクティビティの時間では、自分の特技を披露します。歌を歌ったり、けん玉をしたり、バレエを習っている生徒は踊ったりもします。それを英語で説明しながら披露するのです。このおかげで、人前で発表する時に緊張しなくなったという生徒もいますね」と飯田先生。

留学生とディスカッションするテーマは、ジェンダーに関するものも多く取り上げる。俳優で、UN Women親善大使のエマ・ワトソンが国連本部で行ったスピーチを動画で観て議論したこともあった。「社会に出ると、どうしても女性はジェンダー問題にぶつかります。その時、自分の意見を言えるようになってほしいと考えています」と飯田先生は話している。


(左)短期派遣留学の替わりに実施された「スプリンググローバルプログラム」では、オーストラリアの提携校「Fairholme College」の日本語授業にオンラインで参加
(右)今年から始まった「Global Spark Program」では、春と秋の期間中、全5回の講座を土曜日に開講。留学生と交流したり、バーチャルホームステイも体験する

国際人として
会話できる力をつける

「英語の恵泉」と言われ、英語教育に定評がある同校。中学から初めて英語を学ぶことを前提としているにもかかわらず、高3で英検準1級以上を取得している生徒が14%にも達するなど、素晴らしい成果をあげている。

英語の授業は、中1はHRのクラスを半分に分けての少人数制。こまめに単語やレッスンテストを行い、合格点に届かない場合は補習や再試を行う。さらに毎回「直しノート」で弱点克服をさせるなど、全員が授業を理解できることを目標に、丁寧に学習を積み重ねていく。

高1・高2では、発信力を鍛えるために「エッセイライティング」にも挑戦。高1のテーマは身近な事柄だが、高2では社会で起きていることについてと、視野を広げてのエッセイに取り組む。
校内英語スピーチコンテストでは、中3は暗唱、高1・高2は自分でスピーチの文面を考える。こうした取り組みで、「書く力」をぐんぐん伸ばしている。

飯田先生は「文法をきちんと学ぶことも大切ですが、授業と並行して国際交流プログラムに参加することで、海外の人と話す時には、文法の正確さよりも自分から話しかける『コミュニケーション力』が必要だと生徒は気づきます。言いたいことが伝わらないもどかしさが、英語をもっと勉強したいという思いにつながっていくと感じています」と語る。

恵泉女学園中学・高等学校  https://www.keisen.jp/