掲載:塾ジャーナル2023年3月号

【特別寄稿】
モチベーション維持のためにチェックしたい13項目


株式会社アビリティトレーニング
代表取締役 木下 晴弘


負のスパイラルを避けるために

3月・4月といえば先生方にとって、受験生の送り出し、合否の集計、不合格になった生徒さんへのフォロー等を優先業務としながらも、新入生の受け入れ、塾生に対する新学年に臨むためのマインドセット、もちろん通常の授業と多忙を極める時期です。

私が講師をやっていた頃、この時期は緊張が続くため体調を崩すことはほとんどありませんでしたが、その疲れはゴールデンウィーク前に一気に噴き出し、毎年のように4月末に2~3日寝込んでいました。どうか皆さんはそうならないように、忙しい中にも息を抜くひとときをつくっていただければと思います。

疲労が溜まると、どうしてもモチベーションが下がります。その状態で行う業務はトラブルを生みやすく、その対応に追われることでさらにモチベーションが下がるという負のスパイラルが発生します。そうなるとQOLも低下します。

そこで、今回はそれを避けるために「ちょっと疲れてきたな……」と感じたときにモチベーションアップに効果があると思われる13のチェック項目をあげてみたいと思います。

これは特に受験学年の塾生に推奨・配付していたものなので、激務の渦中におられる先生方の状況に適さない項目もあると思いますが、当時自身に適用していた同僚講師たちもおり、一応に高い効果を実感していました。

①体調を整える
②現状に感謝する
③必要な環境を整える
④難しすぎず簡単すぎない、適度な難易度の業務や課題に挑戦する
⑤小刻みに目標を設定する
⑥小刻みに現状を認識する
⑦何が問題解決に必要なのかを知る
⑧自分がしようとすることの社会的意義を認識する
⑨自分の頑張りがまわりにどんな影響を与えるかを知る
⑩自分の成長を目に見える形で認識する
⑪成長によってどんな未来が得られるかを知る
⑫積み上げてきたものを小刻みに確認する
⑬仲間からの支援

もちろんこれらすべてが整わなくても、モチベーションを維持できる場合はたくさんあると思います。逆にこれらが満たされても何らかの理由でうまくいかない場合もあると思います。しかし、もしやる気に少し陰りが出てきたと思ったときは、まずこの13項目を確認してみてください。そして何か欠けているものがあれば補充してみてください。

紙幅に限りがあるので抜粋になりますが少し詳しく見ていきましょう。

①体調を整える
言うまでもありませんが、体調がよくなければやる気など起こりません。不摂生による体調不良がないように心がけてください、とありがちなことを伝えましたが、実はこれができる人は最終的に豊かな人生を送る可能性が高いのです。

不摂生による体調不良が少ない人とは、節制ができる人です。言い換えると欲望をコントロールできる人です。ストレス発散のためとはいえ、この時期の飲み過ぎ食べ過ぎは禁物です。寝床でのスマホもやめましょう。

「いや、モチベーションが下がっているときに体調管理は難しいでしょう」という意見がありますが、これは全くの逆です。体調が整うことでメンタルがよみがえることは日常茶飯事的に起こります。ちょっと古いですが「スキップしながら悩めない」、あるいは「健全な精神は健全な肉体に宿る」とはよく言い得たもので、体が心に与える影響をうまく表現しています。メンタルが弱っている人は騙されたと思って、例えば筋トレをやってみてください。

②現状に感謝する
かつてハーバード大学全学生の2割にあたる約1,400人が殺到したという有名な講義がありました。講義名は「ポジティブ心理学」です。この講義はきわめて興味深い実験結果に基づいたものです。人間の脳内では感謝することで「オキシトシン」というホルモンが分泌されます。これには、以下のような効果があるとされます。

●自律神経を整える
●免疫力を高める
●ストレスをなくす
●脳の疲れをとる

しかもこのオキシトシンの分泌は精神面のみならず、「新しいことを覚える力=記銘力」にも好影響を与えることがわかっています。この学術的そして医学的なエビデンスのあるオキシトシンの効果を利用しない手はありません。朝起きたとき、食事の前、仕事に取り組む前、寝る前、ことある毎に感謝の言葉を口にするのです。

「今日も目が覚めました。生きています。ありがとうございます」
「ご飯を食べることができます。私は恵まれています。ありがとうございます」
「私には仕事があり、それを必要としている人がいてくれます。ありがとうございます」
「これから私は布団で眠りにつくことができます。豊かです。ありがとうございます」

この世にあって当たり前のことなどないのです。命があることに感謝し、仕事があることに感謝し、仲間がいることに感謝し、あなたの日常に感謝するということをやってみてください。大きな変化が現れるはずです。

⑧自分がしようとすることの社会的意義を認識する
人間は自分のやっていることが誰かの役に立っていると思えるとき「頑張ろう」とする生き物です。さらに言えば、自分の存在に意味があると思えたときに苦しみに耐える力が湧いてくるのです。逆に自分の存在に意味を見失ったとき、場合によっては自らの命さえ断とうとします。だからこの「意味を見出す力」とは「生きる力」と言い換えることができます。

自分の取り組んでいることに社会的意義を感じ取ってください。現象は目に見えます。しかし本質は目に見えません。先生方が現在向き合っている生徒さんや保護者の皆さんは目に見えるので現象です。本質はこの国の未来なのです。あなたの今日の頑張りが、大げさでなく、この国の未来を支えているということを今一度感じ取ってください。

⑨自分の頑張りがまわりにどんな影響を与えるかを知る
「あなたがひたむきに頑張る姿」は例外なく、それを見る者を勇気づけます。そしてその努力は、その瞬間の「都合の良い結果」をもたらすとは限りませんが、成長を約束します。この2点において「努力はあなたを裏切らない」のです。

「努力が報われるとは限らない」という言葉は、あまりにも今すぐ自分だけという浅はかな言葉です。生徒さんの人間的成長を願うあなたなら、「報われない努力などない」ことは常識として捉えておいてください。

⑩自分の成長を目に見える形で認識する
断言します。個人差はありますが、あなたは確実に去年より成長しています。自分では全く感じ取れなくても成長しています。本来その成長を認識できるようにするのは上司の大切な役割の一つなのですが、上司にもその余裕がないほど忙しい時期かもしれません。だから自分でそれを可視化するのです。成果は成長することで必ずついてきます。だから成長を楽しめるように、それを可視化してみてください。継続へのパワーを手にすることができます。

⑪成長によってどんな未来が得られるかを知る
その成長があなたにもたらす未来や収入増を期待値込みで掲示しておくのです。それを見て「よしっ! もう少し頑張ってみるか」と思えることもあるはずです。幸せな成功者は例外なく、成長を楽しんだ結果としての成果を手に入れているのです。

⑫小刻みに積み上げてきたものを確認する
積み上げてきた過去は、それに取り組むことによって生じた紛れもないあなたの成長です。気持ちが萎えそうになったとき「時間はかかっているが、なんだかんだ言ってここまで歩いてきたじゃないか」と思うことができたなら、歩き続ける勇気が湧いてきます。それを常に認識したいものです。

さあ、先生の登壇を待っている生徒さんがいます。「自分を待ってくれる人がいる」この幸せを感じ取り、今日も最高の笑顔で彼らを幸せにしてあげてください。

プロフィール
株式会社アビリティトレーニング
代表取締役 木下 晴弘 氏


1965年大阪府生まれ。同志社大学卒業後、銀行に就職するが、学生時代に大手進学塾の講師経験で得た充実感が忘れられず、退職して同塾の専任講師になる。生徒からの支持率95%以上、灘高校をはじめとする多数の生徒を超難関校合格へと誘う。現在は全国の教育機関で、教員・保護者・生徒向けのセミナーを実施している。
■株式会社アビリティトレーニング https://www.abtr.co.jp/


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