リベラルアーツの伝統を基盤に
未来を創造するイノベーターを育成
同志社中学校
創立者・新島襄の「自由・自治・自立」の精神を受け継ぐ同志社中学校は、創立148年を迎えた。伝統と進取の気風に富む同校は、すべての生徒たちの知的好奇心・探究心を育むことを目的として、校舎に近畿で唯一の「教科センター方式」を採用。これと融合する形で先進的なICT教育やアクティブラーニングを展開。グローバル化が加速し、大きく変化する社会を見据え、伝統のリベラルアーツ教育の上に、新時代を切り開く学びを創出している。
未来への学力を育む
世界標準の教育環境
キャンパスは交通の便がよく、京都駅から地下鉄で20分の「国際会館」駅前に校門がある。京阪神はもちろん、名古屋や姫路方面などから新幹線を利用して通学する生徒は30名を超える。アカデミックな赤レンガ造りの校舎が10万㎡の広大な敷地に並ぶ。その中心にはグレイスチャペルがあり、日々の礼拝を通して、生徒たちは静かに自己と向き合う。人格の成長を促し、これからの人生の指針を得る大切な時間となっている。
校舎は、欧米の学校では一般的な「教科センター方式」を採用しており、理科や技術だけでなく、すべての教科に専門教室を設けていることが最大の特徴だ。さらに教科ごとに「メディアスペース」を配置し、教科に関連する資料や生徒の作品を多数展示している。
理科の標本館では、カバやワニなど約8000点の標本・剥製を所蔵し、100年以上の理科教育の伝統を感じながら学べる。「数学博物館」には、定理パズルや数学アートなど、さまざまな数学を体感できる工夫が施されている。まさに、「学校に入ると、その空間にいるだけで学びたくなる」環境が整っている。
近年さらに力を入れているのが、「同中 学びプロジェクト」である。これには、大学の研究室や企業への訪問、プログラミングやアントレプレナーシップをはじめさまざまな講座、ワークショップ、実験・工作、フィールドワークなど、バラエティーに富んだ内容が用意され、コロナ禍によるオンライン活用の拡大も受け、その数は年間300を超えている。
例えば、京大ips細胞研究所ではDNAを抽出する実験に取り組んだり、東大スーパーカミオカンデ見学ツアーでは、ニュートリノとその検出の仕組みを学んだり、東大理学部では、宇宙研究の基礎の特別講義を受けたりする。
学校の教室での学びを超えたこれらの体験は、生徒の知的好奇心と探究心を刺激し、自分の無限の可能性に気づく機会でもある。卒業生の進路は、同志社大学はもちろん、京大、東大などの国公立や医歯薬系の大学など多岐にわたる。
校内のICT環境は全国でも最先端を行くもので、視察が絶えない。生徒は、日常の学習課題の保存がされている「学習ポータルサイト」を利用するだけでなく、導入10年となったiPad一人一台環境を活用して、学びの世界を広げている。例えば英語の授業では、自分でテキストや写真・動画を作成し、編集しながら英語でプレゼンテーションをしたり、オンラインによる海外のネイティブ講師とのスピーキングにもチャレンジしたりする。
また各自テーマに沿ってフリーライティング(自由英作文)を行うなど、英語の4技能を総合的に育む工夫を取り入れている。こうした設備や教材の構築は、コロナ禍を通じて、学習内容に応じ対面とリモートをハイブリットさせることで、より豊かな授業を実現させている。
言語を超えて
自分の意志を伝える力を
グローバル化の進展や人工知能(AI)の発達により社会の枠組みが大きく変化し、予測不可能な時代を迎えている。「これからの社会に真に必要な学力とは何か」という問いから、教員も新たな取り組みに挑戦している。
例えば、技術教育の「STEAM(ステイーム)教育」は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)の頭文字をとったもので、各教科で学んだことを土台に、モノづくりや問題解決の道筋を探るものだ。単にモノをつくるのではなく、どのようにしたら世の中に貢献できるかを観察し、洞察し、より深いレベルで人や社会に共感することでアイデアが生まれる。
まさにIT技術、AIの発達に伴う、第4次産業革命の真っ只中にいる私たちに必要な力である。「観察」「洞察」「共感」は、デザイン思考の基本能力である。この実践は、1年間「毎日小学生新聞」に掲載され、注目を浴びた。
昨今課題となっているプログラミング教育を含め、STEAM教育の分野においても、先進的な取り組みが進められ注目を浴びている。例年夏には、ArTeC、香港の教材会社の協力も得て、本校を会場にASIA STEAM CAMPを開催している。毎年実施している韓国・台湾との交換研修では、教員・生徒が互いに訪問し合い、一緒にモノづくりに取り組む。
また、インドやフィリピンでも訪問授業を行った。文化も母語も異なる人たちと英語を用いて協業する、まさにグローバル社会で求められている能力を伸ばす絶好の機会だ。
「教育に国境はありません。生徒たちがグローバルな環境でアイデアを出し合い、協力して一つの課題解決に挑む。アジアの国々との協力プログラムでは、英語も用いながら、相手に自分の考えを伝える体験ができる。それが未来に生きる力になるのです」と竹山副校長は語る。
その他の国際交流も盛んで、カナダやアメリカ、ニュージーランドへのターム留学、アメリカや韓国・台湾との短期交換留学、さらには、ハーバード大学やMITでの特別講義の受講ができるものもある。
また、国内でもハーバード大学生とのイングリッシュキャンプ、国際教養大学への研修など多彩なプログラムが用意されている。
ソーシャルスキル育成の原点は
中高時代の演劇(総合芸術)を通じた学び
同志社中学校では、リベラルアーツ教育の理念を生かし、特定の分野に限って学ぶのではなく、さまざまな分野に関心を広げて学ぶことで、成功体験を増やし、チャレンジ精神を育成している。竹山副校長は、「新しい時代をリードしていくには、レジリエンス(逆境力)とソーシャルスキルが必要」と強調する。イノベーションは、異分野・異文化の多様な人たちとの問題意識やアイデアの論戦から生まれるからだ。
キリスト教主義を徳育の基盤とする同志社中学校で、生徒たちは礼拝での講話や学校行事を通じて互いの違いを認めた上で他者を思いやり、協働する共生力を身につけていく。その最たるものが学園祭の演劇フェスティバルである。興味や関心が共通する生徒が集まるクラブ活動と異なり、中2から高3までの全クラスが、それぞれの舞台を造り上げる。
考え方や目指すものの違いを超えて、協力しなければならない。まさに今話題のプロジェクト型学習そのものである。仲間との話し合い、試作、そして挫折、解決への努力を通じての克己心やリーダーシップの萌芽など、組織で活動する資質が自然と育まれていく。卒業生は異口同音に、「この経験がさまざまなソーシャルスキルの原点になった」と語る。
生徒会やクラブ活動は、中高で分かれて活動しているため、中学3年生で一度、最上級生になり、さまざまな場面でリーダーとしての役割を果たさなければならない。一人ひとりのリーダーシップの育成が一層求められる時代に、より早い段階で主体性が育つ環境がここにはある。自らの資質を高めるという点で、他校に比べて人間的成長が早いと言える。
生徒の約9割が推薦で同志社大学に内部進学するが、他大学への進学実績も有する。大学入試改革がさまざまなかたちで進められる現在、2030年から2050年代に社会人として活躍する生徒たちにとって、将来幅広い選択肢が可能であることが学校選びの重要なポイントになるだろう。
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