人間と人工知能が共存する時代
駒込学園の多様性を認める教育に注目
駒込中学校・高等学校
天台宗・最澄の「一隅を照らす」という言葉を教育の理念として掲げつつ、自由で先進的な教育を進めている駒込中学校・高等学校。中学入試では、自己表現入試や国語の1科目入試など、子どもの力を多角的に評価する選抜方法に注目が集まっている。
「ChatGPTの時代へ切り替わっていく時、知識を暗記し答えにいかに早く辿り着くかという、競争原理の教育はもう終わります」と語る河合校長に、生成AI対策にどのように取り組んでいるのか、文化祭での生徒の様子など幅広く語ってもらった。
人工知能をどう活用するのか
教員全員で理解し実践
世界中でその使用方法について様々な議論が巻き起こっている対話型生成AI(人工知能)。教育現場でも、ChatGPTの活用方法について速やかな対応が迫られている。
STEAM講座をいち早く導入し、中学受験でプログラミング入試を行うなど、最先端の教育を取り入れてきた駒込学園。今年の夏、教職員対象の「夏期教育研究会」では「ChatGPT活用方法について」がテーマとして取り上げられた。
研究会では教職員全員がChatGPTを実際に操作し、使い方やメリット・デメリットを理解。外部講師の講演後は、教科ごとのグループに分かれ、議論を重ねた。
河合孝允校長は、「ChatGPTはこれから次世代の子どもたちの遊び相手になることでしょう。私たち教職員はChatGPTが与える『光と影』、特にマイナス面について、生徒にきちんと伝えなくてはいけません」と話す。
「これまでは人間だけが言葉を使うことができ、言葉こそが人類の高度な知的活動を支えてきました。しかしAIの登場によって、人類の立場は覆されようとしています。学校教育において一番影響が大きいのは英語教育でしょう。スマホが同時通訳をしてくれるようになれば、英語を学習する目的が変わります。誰もが一律に英語を勉強する必要はなくなり、英語学習に割いていた時間を専門分野の学びに振り替えることができます」
高度なAIを生み出すために必要な半導体については、原材料のレアメタルの輸出規制が行われるなど、各国で「半導体争奪戦」が繰り広げられている。
「ChatGPTによって社会はどう変わるのか、そして国際社会では今何が起きているのか。教職員ら大人が理解することが大切です。本校の説明会ではそうした世界の動きについてもお話します。駒込学園は情報の交差点。それが人気の要因のひとつになっていると考えています」(河合校長)。
歴史ある私学助成
「駒込イズム」の形成に寄与
来年度、一般財団法人東京私立中学高等学校協会の第4支部支部長校となる駒込学園。河合校長が担当となるのは今回で3回目だ。「私学助成の歴史について知っている先生方が少なくなってきましたので、この機会に冊子にまとめました」と語る。
戦後、日本では民間教育機関への公費支出が厳しく禁じられていたため、公費による私学助成は行われなかった。しかし私学関係者の働きかけにより、現在、東京都内の私立高校に通う生徒には学費負担を軽減する制度が拡充した。国の就学支援金と東京都の「授業料軽減助成金」の2つで、合計で年47万5千円(在学校の授業料が上限)まで助成が受けられるようになっている。
「私学は、自助・共助・公助の順で、自分の学校の財政基盤を固めていくべきだと考えています。本校では私学助成の様々な制度を活用し人件費を確保。教員や職員の方々に長く安心して働いてもらえるよう、雇用環境を整えています。それが学校への帰属意識を高めることにつながり、先生方の熱心な指導が『駒込イズム』をつくっているのです」
一生の思い出をつくる「玉蘭祭」
大学合格実績は過去最高
2023年9月16、17日、文化祭「玉蘭祭(はくれんさい)」が行われた。一般にも公開されるのは3年ぶりだ。「コロナ禍でも文化祭は学内で開催し、伝統をつなげてきました。生徒たちにとっては、玉蘭祭は一生に一度の思い出となる大切な行事。のびのびと楽しめる文化祭にしてあげたいですね」と河合校長は話す。
当日は生徒たちが歌うカラオケ大会や、教員によるバントも出場する「バンドコンテスト」のほか、和太鼓部、吹奏楽部などの公演でおおいにステージが盛り上がった。
中学生発表のハイライトは「弁論大会」。中1から中3の各クラスから1名の代表が登壇し、「願い」をテーマに中学生らしい素直で熱い主張に大きな拍手が送られた。
通常授業では、コロナ禍で中止となっていた中学での「STEAM特別講義」が3年ぶりに復活。埼玉大学の野村泰朗准教授を講師に招き、段ボールで本体を作成し、モーターをプログラミングして自動走行車を製作した。
この他、高校の理系先進コースの生徒は、小中高校生による国際ロボットコンテスト「WRO(World Robot Olympiad)」にほぼ毎年参加。この夏も東京都大会を勝ち抜き、全国大会へと出場を進めた。
国際教養の生徒たちは数年前から地域の戦争体験者に聞き取りを行い、戦争の記憶を伝える活動を続けている。「戦争を忘れない」「次世代に伝承する」「平和を考える」の3つが活動のテーマで、現在はウクライナとロシアの関係についても学んでいる。
同校はこうした生徒主体の活動を積極的に認め、サポートしている。そのため生徒は興味のあることに思い切り打ち込むことができるのだ。
令和5年度の大学進学先では、国公立大40名、早慶上理ICUに69名、GMARCHに200名が合格し、過去最高の実績を記録した。「本校は偏差値教育を行っているわけではありません。スポーツや芸術の分野に進む生徒もいます。つまり、多様性を認めている学校なのです。生徒には自分の好きな道に進んでほしいと思います」と河合校長は温かい表情で締めくくった。
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