マナビネットオープンスクール2024 ●掲載:塾ジャーナル2024年5月号/取材:塾ジャーナル編集部

「自分の半径5m」を出発点とした
創造性あふれる探究活動を通じて
「解なき時代」を生き抜く力を身に付ける

学校法人 静岡理工科大学 星陵中学校・高等学校

少子化が加速する中でも、常に定員を大きく超える志望者数を誇る星陵中学校・高等学校。今年は国公立大学・難関私立大学の合格数が190名を超えるなど、大学合格実績も華々しい。その勢いから、近隣地域では、間近にそびえる富士山のように堂々たる存在感を示している。それは何よりも、高等学校創立50周年を間近に控えた歴史がありながら、この「解なき時代」を予見していたかのような先進的な教育を早期に取り入れてきた成果といえるだろう。2011年の中学校開校以来、ますます進化が加速する星陵の教育現場に迫る。


世界を切り取る視点
SDGsが探究を加速する

「今年は医学部の合格者が複数名以上と、特に増えましたね」と振り返るのは、渡邉一洋校長。しかし特別な受験対策を推し進めてきたわけではまったくないという。「近年は総合型や学校推薦型といった入試形態が増え、これまでのような一般入試が減っています。それは社会が求める『学力』の定義が変わってきているからです。合格実績の伸びは、入試形態が星陵の学びに追いついてきた証左かもしれませんね」

そんな新しい「学力」を長年育んできた星陵の学びの屋台骨が、中学校1年から行われる探究活動「美育」だ。

「STEAMにグローバルのGを追加したGSTEAM教育をベースに、本物に触れ、心動く実体験から探究を深めていく教科横断的な学習が『美育』です。いわば、『STEAM教育3・0』ですね」

その美育の核となるテーマがSDGs。星陵では、2015年に国連採択された翌年から、県下最速でSDGsに取り組んできた。「SDGsは世界を見る有効な切り口になる」と渡邉校長は続ける。

「率直におもしろいテーマが出てきたなと感じました。本校では中学1年からSDGsについて学び、SDGsを自分ごととして総合的にとらえる『複雑性の理解』の段階に早期に到達しておきます。そうすることで、例えば中学2年で磯の生き物を観察しに行った際にも、SDGsの視点から『意外とゴミが落ちているな』など、しぜんと課題の発見に結びついていきました。また、同じ体験の中でも生徒一人ひとりの心が動くポイントは違います。その違いをカバーできる懐の深さが、SDGsというテーマにはあります」

「創造性」を育む
探究活動のポイント

星陵の探究活動は、基本的にグループで行われる。「仕事は一人でやるものではありませんから、意見が合わずにもめることもありますね。もめ事を解決しながら協働する力は、10年、20年先に必ず生きてきます」と、橋本教頭は言う。

日本人は議論が苦手だといわれて久しい。意見の相違によるもめ事を避けたくて、議論そのものを敬遠してしまったり、自分の意見を飲み込んでしまったりもする。現在も中学2年の英語の教壇に立つ橋本教頭は、日本と外国で議論に対する感覚が大きく異なっていると語る。

「英語には、discussion、debate、disputeなど『議論』を表す単語がたくさんあります。どうしても日本人は議論に感情が入り交じりがちですが、いま話しているようにリラックスしながら互いの意見や思いを交換し合うことも議論(discussion)なのです。また、逆に人と違う意見を言いづらく、つい同意をしてしまうケースもありますね。すると外国では『同じだと思った理由を教えて』と言われます。つまり、どのような立場でも自分の考えをもたなくてはいけない。こうしたことも、答えのない課題にグループで取り組む中で、自ずと身についていきます」

課題を見つけて解決する道筋をつけることは、生徒だけでは難しい場合もある。そこで大切になるのが教師の関わりだと、橋本教頭は力を込める。「『先生は正しくて、何でも知っている』という時代は終わりました。今、特に重視しているのが、生徒の思考のトリガーを引く疑問(トリガークエッション)を投げかけること。『何でそう思うの?』『本当に?』『誰が言ったの?』といった、ごく単純な疑問でもよいのです。生徒が頭を働かせるきっかけを、いつ、いかに与えられるかが教師の力量です」

一般的にはまだ、探究活動と銘打ちながら実態は調べ学習に終始するような授業も少なくない。しかし情報それ自体は何も語らない。得た情報からどのような課題を発見し、解決していくかを自分の頭で考えることこそ、探究活動には求められるのだ。橋本教頭はそれを端的にこう言い表す。「探究活動で何よりも大切なのは、新しいものを生み出す創造性なのです」

探究活動の出発点は
「自分の半径5m」

これからの展望のひとつとして、「GSTEAMに体を育てる要素も加えたい」と渡邉校長は言う。体を動かすことで身体能力が育つとともに、体で味わうリアルな体験が広がっていく。昨年度には、さっそく中学校1年で山中湖一周サイクリング、2年で宝永山トレッキングを行った。今年度は3年でキャンプをする計画もある。「学校だからこそ実現できる体験を重ねていきたいですよね。親は、博物館や美術館には連れて行けても、外周10数㎞ほどもある湖のサイクリングにはなかなか連れて行けませんから」

さらに、サイクリングと合わせて富士山麓の植生を見て回ると、「意外と広いな」「鹿に皮を食べられて枯れそうな木がずいぶんあるな」など、実地だからこそ感じられることがあるという。そこにSDGsの視点が働き、「土地を有効活用するために風力発電はどうか」「傷んだ木を間伐材として使うのはどうか」といった課題解決的思考が、生徒の頭の中でぐるりと動きはじめる。

このように、リアルな体験が自分の興味を呼び覚まし、自発的に課題の発見・解決をくり返す探究活動につながっていく。探究活動の出発点は、あくまで「自分の半径5m」だ。その延長線上に大学があり、生徒一人ひとりの実現したい未来がある。

星陵は「星の見える丘」という意味だ。
 星陵から遠く見渡す未来には、無数の星が輝いている。


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