マナビネットオープンスクール2024 ●掲載:塾ジャーナル2024年7月号/取材:塾ジャーナル編集部

情報教育の伝統校
競技プログラミングでは全国的な強豪

帝塚山中学校高等学校

帝塚山中学校高等学校は、成長期の男子と女子、それぞれに応じた指導で意欲を引き出す「男女併学」で知られ、2024年度入試では東大・京大を含めて現役127人が国公立大学に合格した進学校。同校では伝統的にプログラミングの授業を重視してきた。また競技プログラミングに取り組む数学研究部は全国大会常連の強豪である。2025年大学入学共通テストからは「情報Ⅰ」が出題され、情報教育の重要性が高まる中で、数学研究部の部員2名と、その顧問で情報科の教員でもある2名の先生の座談会を開いた。


入試科目「情報」以前から
取り組んで来たプログラミング

同校では、「情報」が大学入試に取り入れられる前から積極的にプログラミングの授業を実践してきた。

──どういった経緯でプログラミングの授業を重視されてきたのでしょう?

西川和宏先生(以下、西川先生) 私が着任して17年になりますが、それ以前からカリキュラムの中でプログラミングが重視されおり、それを引き継いで発展させてきました。本校の生徒は吸収が速く、その力に見合う指導ということで技術・家庭科の中ではプログラミングが中心になってきました。

房川遼太郎先生(以下、房川先生) 実は私も本校の卒業生なのですが、技術や情報の授業でプログラミングをして興味深かったのを憶えています。最初は難しく感じましたが、コードが正しく動いたときの達成感が格別でした。先生の分かりやすい説明と実践的な課題のおかげで、自分でプログラムを作る楽しさを実感できたのだと思います。

──プログラミングの授業の内容を教えてください。

房川先生 中学の授業ではゲームの制作を取り入れて楽しく授業をしています。本校では中学生から文字を書いていくテキストプログラミングでコーディングしています。他校をみると中学生ではイラストやブロックをつなげていくビジュアルプログラミングばかりなので、本校はかなりレベルが高いと思いますね。

西川先生 高校ではさらに難易度を上げ、プログラミングでさまざまな課題を解決するような出題を用意しています。オリジナルのテキストを作って難易度別に複数の出題を用意しているので、自分の習熟度に合わせて取り組めるようになっています。興味のある生徒は、どんどん進んで授業内容だけで情報オリンピックの問題を解いていたりもします。

──授業の準備に時間がかかりそうですね?

西川先生 専任で私と房川先生の2名がいて、非常勤の先生にも1名来ていただいています。皆で知恵を出し合って教材を作っています。全国的に情報科の教員が不足する中で、3人で授業を作っていける環境は本当に有難いと思っています。

房川先生 教材は共有して作っているので、誰の授業を受けてもベースのテキストは同じです。生徒はどの先生にも質問に行けますし、動画で別の先生の解説を見ることができるメリットもあります。

積極的にプログラミングの授業を実践してきた西川先生と房川先生は、2025年から導入される情報Ⅰの入試をどのように捉えているのだろうか。

西川先生 入試科目になったことで、我々も得点できる指導のスキルを求められていますね。出題されるならどのような形かというのは中学生からイメージを伝えています。授業内容もそうですし、中学の技術の定期考査から共通テスト仕様です。

房川先生 昨年度まで模試に「情報」はなかったので、定期考査で生徒の達成度を確かめてきました。思考力や読解力を求める問題作成に努めています。

西川先生 「情報」が入試科目になるのは、我々にとってもチャレンジです。生徒たちが良い結果を出せるよう出題を分析し、指導していきます。

アルゴリズムを駆使し
競技大会に挑む

数学研究部の部員で高校3年生の辻本穂波さんは、「日本情報オリンピック」や「パソコン甲子園」の上位入賞者。高校2年生の河内拓人さんは、競技プログラミングやゲーム制作だけでなく、こども家庭庁が主催する「青少年のインターネット利用環境づくりフォーラム」にパネリストとして登壇するなど広く活躍している。プログラミング班に所属する2人を加えて、顧問の西川先生と房川先生で活動の楽しさや成果を語り合った。

――入部の動機と活動内容をお聞かせください。

辻本穂波さん(以下、辻本) CG制作がしたくて入部したのですが、西川先生にプログラミングを指導していただいたら、パズルのようで楽しくてハマってしまいました。

河内拓人さん(以下、河内) 中学時代は理科部実験班で生物の標本を作ったりしていたのですが、授業でプログラミングを勉強するうちに興味が湧いてきて数学研究部に入部しました。普段はオンラインで毎週開催されるプログラミングのコンテストに参加するのが活動のメインです。大会が近づくと傾向に合わせた問題を解くようにしています。

――競技大会ではどんな課題に取り組むのですか。

河内 課題は数学の文章問題に近いです。与えられた課題を解決するプログラムを制限時間内に実装するスキルを競います。

西川先生 知識としてもっているアルゴリズム(計算や処理の手順)を使って、いかに効率の良いプログラムを作れるかの勝負なのですが、ひらめきも大事だね。

辻本 そう思います。まず、どのアルゴリズムを使うのかはひらめきですし、さらにアルゴリズムの基礎知識だけでは解けない部分もありますから、発想力や応用力が問われます。

河内 例えば出題頻度の高い、最短経路を求める課題では、始点とゴール地点が与えられるだけでなく、「この道は通れません」というような条件が加わりますから、臨機応変に複数のアルゴリズムを当てはめる力が求められます。

西川先生 二人の印象深いアルゴリズムは何?

辻本 幅優先探索ですね。最短経路を求めるアルゴリズムなのですが、初めて自力で理解できたアルゴリズムで嬉しかったのが印象に残っています。

河内 僕は動的計画法です。そのままでは計算量が多すぎる問題を、部分的な問題に分解して解決するのですが、初めて考え方を知ったときに感動しました。

――部活としての注目度はいかがでしょう?

西川先生 競技プログラミングの大会は、ブラスバンドの応援もないし、高校生がひたすらキーボードを叩いているのはかなり地味な風景です(笑)。

辻本 それでも、私たちにとって大会は刺激になります。周りにプログラミングをやっている女子は少ないので、全国大会での他校との交流はとても貴重でモチベーションにつながります。

河内 同感です。私は今年のパソコン甲子園本選出場を目指しています。予選はオンライン参加ですが、本戦は会場開催ですから、本戦に進んで他校のレベルの高い人たちと情報交換がしたいです。

――プログラミングに取り組むことで得た成果はありますか。

辻本 私は文系ですが、プログラミングで思考力を鍛えてきたせいか、数学に苦手意識がありません。将来は法曹志望なので、法学部を目指して勉強しています。

河内 私は理系で国語が苦手でしたが、競技プログラミングは「問題文の意味がわからない」という人がいるくらい文章を読み解くことが重要で、取り組んだおかげで読解力が向上したと思います。進路は工学部の情報系か物理系を志望しています。

今年度、帝塚山高等学校では、文科省が情報・数学等の教育を強化する高校を支援する事業「DXハイスクール」に採択された。情報化社会で活躍できる人材を育む帝塚山中学校高等学校。それはまさに時代の要請と言えるだろう。


過去の記事もご覧になれます

3年ぶりのアメリカ・ボストン研修再開 期待を寄せる生徒たちの思いと未来への夢


帝塚山中学校高等学校 https://www.tezukayama-h.ed.jp/