第7回『塾教育が創る未来への懸け橋』
いぶき学院 学院長 鈴木 正之
子どもを守る場所だ!
親による子の虐待、虐待の痕跡や兆候が見つかった場合、子どもを保護するための児童相談所があります。学習塾が家庭の中に入り込むことについては、それぞれの学習塾の考えがあると思いますが、学習塾が子どもたちの居場所となり、苦しみ悩む子どもたちにとって、最後の砦となることもあります。
子どもたちが学習塾で過ごす年月は学校よりも長いケースがあります。当塾でも塾生が小学生から高校生まで在籍することも少なくありません。1人の人間が子どもから大人に変わっていくことに携わり、その過程の中で日々変化があり、家庭や学校、友人との葛藤に向き合う子どもたちを目の当たりにします。そこでは相談に乗るということも必然的に起こり、我々は寄り添い、話を聞き、勇気づけていきます。
家庭や学校を尊重しながら陰で支えていく役割が、学習塾にはあるのではないでしょうか。
以前、中学校での態度が悪く、学校では手に負えないという子がいました。しかし彼は、塾では明るく協調性もあり優しい子でした。その子は、学校の彼への対応について反発していただけなのです。
その件で、私は学校の担任の先生と話をしたことがあります。学校で貼った“不良”というレッテルに対して、それは違っていることを話し、対応を改めて欲しいこと、それに対して親も苦しんでいることを伝えました。
しかし、お会いした先生は私の話を“上の空”で、「はいはい、わかりました」とは言っていても、真剣さが感じられませんでした。従って、その後の対応の改善はありません。会いたいと申し入れてからお会いするまでに数ヵ月を経て実現した機会なのに、残念でなりません。時間がかかったのは、親がいくら頼んでも学習塾の先生の私とは会ってくれなかったからです。その先生は仕方がなく私と会い、“会った”という事実をつくっただけというのが私の見解です。
親も学校も学習塾も、願いは“子どもの幸せ”だとしたら、関係者が腹を割って話し合うこと、それぞれの場所での状況、それぞれの立場での考えを集約して、同じ方向を向いて接していくことができると思います。
学校が子どものことで問題が起きた時に責任を取らされることが怖くて、問題を隠蔽し、子どもを守るのではなく自分を守るようならば、学校は何のために存在しているのかわかりません。それは学習塾でも同じで、自分たちを守るために、子どもたちを蔑ろにすることは許されません。利益を得るためだけの目的で集客し、子どもを守らず学習塾を守るようならば、すぐにやめた方が良いでしょう。
無くなっていい学習塾はないという話をしましたが、無くしてはならないのは子どもに寄り添い守る学習塾です。教育機関とは“子どもを守る場所”なのです。
不登校になる子どもたち、自殺を図る子どもたちには兆候があります。そこを逃さず察知できれば、それらは確実に減るはずです。子どもたちもなりたくて不登校になったり、死にたくて自殺を図ったりするわけではありません。その前に必ず、「わかって欲しい」という合図を出すはずです。その合図を察知するために、アンテナは多ければ多い程良く、そのアンテナの一つに学習塾が含まれます。
学校の中には「学習塾に行かなくても済むように、学校が学習指導をする」ところがありますが、学習塾の役割は学習指導だけではありません。家庭や学校で居場所がなくなった子にとっては、学習塾が最後の砦となるケースもあるのです。
不登校の子を何人も見てきましたが、一つのケースでは、学校で先生と会話ができず不登校になり、スクールカウンセラーの方とも会えず、親御さんが当塾を頼ってきてくれました。ところが段々私とも口を聞いてくれなくなり、電話の向こうで1時間以上黙り込むこともありました。
そこで私は、第三者の力を借りることにしました。今までも私と一緒に不登校の子に対応してきたボランティアの女性です。彼女にその子の家に行ってもらい、関係を構築することにしました。半年以上かかりましたが、少しずつ心を開き、当塾にも通うようになりました。その後、学校にも通い高校を卒業して進学していきました。好きな勉強をするために、自ら留学もするような子になりました。第三者の力も借りながら、皆の力を合わせた結果です。両親とも何度も会いましたが、一番辛かったのは本人だと思います。
少なくとも、家庭と学校と学習塾のどこかが子どもたちの最後の砦となることができればいいのです。信頼できる人、話を聞いてあげることができる人が1人いれば、解決する可能性があります。どこかが兆候を察知し、どこかが最後の砦となり対応して情報を共有、そうして皆で原因を特定・分析して、同じ方向で対策を実行します。
そのためにはまず、学校と学習塾のホットラインの構築が必要です。大きな問題になればなるほど絶対に必要です。こうしている間にも苦しんでいる子どもたちがいることは確かです。だからこそ“善は急げ”。我々の役割には子どもたちを守ることがあります。私も地元から働きかけをして必ず実現します。
学習塾は経営者(塾長)とスタッフ(講師・その他職員)、そして塾生と保護者様、学習塾を支える外部関係者で成り立っています。
飲食店に入ると、きちんとはしているのですが、どうも違和感を持つことがあります。その違和感は、何か騙されているような感覚です。きれいな店内でおいしい物を提供してくれても、そこにはお金の影が見え隠れします。代金の支払いは当然のことですが、どうしても気持ちの良い食事とはなりません。気持ちよく食事ができるお店は、お客様を満足させようと気分良くさせるところであり、そうなると気持ちよく支払いもできるものです。
営業の電話もそうです。相手にとって良いことではなく、自分にとって良いことをしたいから営業をしていることが見え見えです。たくさんの人を雇い電話をさせて、ノルマを課して契約を取り付ける会社かなと憶測してしまいます。それでは雇われている人は契約を取れなければ、給与もまともにもらえず使い捨てです。儲かるのは会社だけ、それも一部の経営者だけかもしれません。勿論、契約を結んだお客にとって、それが良いのかどうかもわかりません。
我々は子どもたちが将来、そのような経営者になってしまうことも、そのような仕事に就くことも、そのようなお客になることも望んでいませんよね。だからこそ、学習塾はそのような組織であってはならないのです。
経営は利益を求めますが、多くの人へ豊かさを提供する上での利益です。職員も子どもたちも将来社会に出て幸せになり、他の人も幸せにできる人間になってもらう。そうなれば日本が良くなるはずです。だから、学習塾は職員と子どもを育てていくことが必要なのです。
学習塾が人を育て、人を守り、人の居場所となることができるなら、一人で悩み苦しむ人に未来を与えられるのではないでしょうか。
学習塾業界37年、1997年いぶき学院開塾。2002年地元を良くする為の団体「大井町から教育を考える会(OKK)」の発足に携わる。現在、全日本私塾教育ネットワーク会長、大井町から教育を考える会専務理事、公益社団法人全国学習塾協会理事、NPO日本教育カウンセラー協会認定初級教育カウンセラー、ステップ勇気づけセミナー大井町ルームリーダー。
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