社会とのつながりを通して
考え抜く力、知ろうとする意欲を育む
玉川学園(東京都)
「技術分野でもプレゼンテーションをする機会をつくりたかった」と山田先生。企業の前で発表した生徒たち
61万㎡の広大な敷地の中に幼稚部から大学・大学院まで擁する玉川学園。創立者小原國芳が掲げた「全人教育」(人間形成には真(学問)・善(道徳)・美(芸術)・聖(宗教)・健(健康)・富(生活)の6つの価値を調和的に創造すること)を教育理念としている。「触れて・感じて・表現する」を目標にしている中学部では、昨年度7年生(中1)が技術・家庭科の技術分野で、企業の協力のもとプレゼンテーションをする、という特別授業を行った。キャリア教育にもつながるこの特別授業には国語科や数学科も関わっており、教科横断型の授業として学園内でも注目を集めた。
一年間の学びの集大成
企業との特別授業を開催
7年生(中学1年生)の技術・家庭科の技術分野では、1年間かけて金属、木材、プラスチックなどの素材について学習する。技術分野担当の山田真也先生は「技術分野では、生活や社会における事象を、材料と加工の技術でとらえます。一つの素材に関して生産から廃棄までの安全性、耐久性、機能性、環境への負荷、生徒の生活や社会、技術とのつながりについても考え、学びます」と語る。
2021年度の7年生が様々な素材の学習の集大成として行ったのが「カミソリから学ぼう〜プラスチック資源循環法と紙カミソリ®から考えるものづくり」という特別授業だ。グローバル刃物メーカーの貝印株式会社とのコラボレーションで行われた。
「2022年4月に『プラスチック資源循環促進法』が施行されるタイミングもあって、生徒たちには社会の流れを感じながら一年間の学びを通じて、持続可能な社会や生命の大切さを学んでもらいたいと考えていました。そんな時、インターネットで見つけたのが貝印株式会社の『紙カミソリ®』でした」と山田先生は話す。
数々の企業とのコラボレーション授業を行ってきた山田先生は早速貝印に連絡を取り、特別授業を企画・提案し、協力を依頼した。プラスチック資源循環促進法について学んだ後、実際に発売前の紙カミソリ®に触れて感じ、商品についての理解を深めた。モノづくりを通してSDGsに取り組む企業ということで「社会からの要求」「耐久性、機能性、生産効率」「生産から廃棄までの安全性」などの側面から批判的視点を持って商品を評価した。
生徒たちはさまざまな視点からデータを集め、アンケートを取り、結果をグラフ化。それらをもとに紙カミソリ®が「どんな人に、どんな場面で使ってもらえるのか」「SDGsとの関連や貢献」を考え、「商品を広めるためのキャッチコピー」をつくり、最後に貝印の社員の前でプレゼンテーションを行った。
(左)紙カミソリ®は従来の商品に比べ98%ものプラスチックを削減し、金属の刃体と紙のハンドルでつくられている
(中央)約3mmの薄型で、重さ約4gと超軽量の本体紙カミソリ®
(右)発売前の商品を提供していただき、実際に触れて、プラスチック製のカミソリと比較する生徒たち
国語と数学の要素を効率的に取り入れ
プレゼンテーションをブラッシュアップ
学習は4〜6名のグループに分かれて行われた。今回、山田先生は国語科と数学科に協力を仰ぎ、いわゆる教科横断型で授業を行った。
「プレゼンの形として『OREO』を導入しました。『OREO』の最初と最後のOはObjective(目標・目的)、RはReason(理由)、EはEpisode(根拠となる事柄)を表します。つまり、最初に目標・目的を伝え、次になぜそうなるのかという理由を説明し、根拠となる事柄をあげ、最後にもう一度目標や目的を述べるという方法をとりました」(山田先生)
「国語科では思考力を養うため、『言語技術』を取り入れています。結論を述べた後に根拠を示し、さらに結論を述べ、伝えたいことを繰り返す、という訓練をしています。自分たちの考えをわかりやすく伝えるために整える、という言語技術の面からこの特別授業に協力しました」と国語科の遠藤英樹先生は言う。
「根拠を示す」場面でサポートしたのは数学科。担当の鈴木孝春先生は「与えられたデータをどのように処理するかは授業で学びますが、それだけでは実践的なスキルは学びきれません。『データの活用』の領域を生かし、今回はプレゼンにデータを使うことで、発表内容に説得力を持たせました。教科書だけでは学びきれない、物事に説得力を持たせるための一段階『生きた』データを直接扱い、そのデータ処理を実践的に学ぶことができました」と語る。
貝印の前でプレゼンテーションを行う様子。クラス予選を勝ち上がった班の発表を審査していただいた
企業の社員を前に選ばれた
8班がプレゼンテーション
3月に行われた特別授業ではまず、7年生の全グループが発表し、クラス予選を行った。
予選を勝ち上がった計8班(各クラス、2班ずつ)が来園した貝印の社員4名を前にプレゼンテーションを行った。貝印による選考の結果、「世界初!! 身近なところから地球を守ろう!!!」というキャッチコピーをつくった班が優勝。発表では、紙カミソリ®の薄さという利点に着目し、「輸送時に出る二酸化炭素の排出量の抑制」と「プラスチックごみの削減」について、根拠となるデータを用いて論証した。
講評した貝印の広報宣伝部次長・齊藤淳一氏は「生徒たちが皆、楽しそうに発表しているのが印象的でした」と述べ、さらに「どれだけ商品や環境問題を『自分ごと』としてとらえられるかを採点のポイントにしました」と語った。
山田先生は「生徒たちには物事の奥まで踏み込んで、多角的に考える力をもってもらいたいと願っています。たとえば8年生の技術分野ではエネルギーについて学びますが、一つの発電方法をとってもメリットとデメリットがあります。生徒たちにはこのような授業をきっかけに何事にも疑問をもち、さまざまな学びに生かしてほしいですね」と話す。
さらに、「今回は国語科と数学科との教科横断型授業でしたが、たとえばプレゼンを英語で行うことになった場合は、英語科にも協力してもらうことになります。今回の特別授業をきっかけに教科横断型の授業の機会がもっと多くなれば良いと思います」と熱く語った。
中学部の「触れて・感じて・表現する」の目標を具現化したこの特別授業が、さらなる進化を成し遂げ生徒たちの学びをより深いものにしてくれるに違いない。
プレゼンテーション後の集合写真。貝印株式会社の広報宣伝部の皆さんと達成感あふれる笑顔の生徒たち
玉川学園 https://www.tamagawa.jp/academy/
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