マナビネットオープンスクール2023 ●掲載:塾ジャーナル2023年7月号/取材:塾ジャーナル編集部

自分らしくいられる校風
一人ひとりの個性が輝く

恵泉女学園中学・高等学校

1929年、一人の女性キリスト者・河井道氏によって創立された恵泉女学園中学・高等学校。第一次世界大戦を経験した河井氏は、戦争をなくすためには世界に向かって心の開かれた女性を育てることが必要だと、女子教育に心血を注いできた。その思いは今も引き継がれ、世界平和のために尽力する人物を世に送り出している。
 昨今の中学入試では、そうした伝統女子校の教育に再び熱い注目が集まっている。キリスト教の教えに基づき、平和実現のために貢献できる女性の育成をめざす恵泉女学園。そこには生徒の個性を輝かせる教育がある。


女子教育に取り組んできた
伝統校への信頼感

今春の首都圏の中学受験では、伝統ある女子校の志願者が増えたことが大きな話題となった。1929年創立で、もうすぐ100周年を迎える恵泉女学園もその伝統校のひとつ。2023年度の中学入試では、過去最高の1600名の出願者数を記録した。

本山早苗校長は「中高の6年間は人生の基礎をつくる大切な時間です。先行き不透明な社会状況の中でこそ、自立した女性を育てる恵泉の教育に信頼を寄せていただいたのではないでしょうか」と話す。

学校説明会で「女子校の良さは何ですか」と質問を受けると、本山校長は「女子しかいない環境だからこそ、『自分はどういうタイプなのか』を見つけやすい。それに異性の目を気にせず、素の自分を出せるので、居心地がとても良いのです」と答えている。

中学校・高校で1200名近くが学ぶ同校。一年中パンツスタイル、本の虫、元気でスポーティー、アニメ好きなどなど、さまざまなタイプの生徒が一緒に学んでいる。創立当初から制服がなく、TPOに合わせて、自分で服装選びができる「自由服」も生徒の個性を尊重している証だ。歴史と伝統に育まれながら、生徒たちは軽やかに、いきいきと学校生活を送っている。

「一人ひとりの個性が輝き、自分らしさをそのまま出してよい学校。それが恵泉なのです」と本山校長は語る。

誠実な言葉が心に響く
礼拝での「感話」

時には受験生から「いじめはありますか?」と聞かれることもある。確かに入学時にはそのようなトラブルが無いわけではないが、学年が進むにつれ、なくなっていくという。

本山校長は「相手の話を聞き、理解しようとする風土が本校にはあります。それには、礼拝の中の『感話』が重要な役割を果たしています」と話す。

生徒が日頃感じたり、考えたりしていることを文章にまとめ、礼拝時に他の生徒の前で述べる「感話」。全生徒が年に3回「感話」を書く。生徒は6年間繰り返し「感話」に取り組みながら、自分自身を見つめる作業をしている。

「思っていることを文章にまとめるのは、簡単なことではありません。自分の考えを誠実に言葉にしていく作業は大変です。その苦労がわかるからこそ、相手の考えを聞き、真剣に受け止めようとするのです」

「感話」を聞いた生徒は「あの人はこんなことを考えていたのか。それなら私はどうなのだろう」という思考を常に繰り返す。考え方の違う人を排除しようとするいじめという行為はそこには生まれない。

「感話」で培われた思考する力は、「社会に出てから正解のない課題に直面した時にも対処する力となる」と本山校長は続ける。「コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻など、先行き不透明な時代になっても、常に相手の意見を聞きつつ、『自分ならどうするだろうか』と考える習慣を6年間重ねることで、人としての芯がつくられると考えています」

アジアを牽引する
シンガポール国立大学と交流

国際交流にも力を入れている。2022年度は「Keisen Global S-park Program」の一環として、シンガポール国立大学とその付属高校の生徒との交流プログラムを行った。同大学は世界大学ランキングでもアジアトップの高い評価を得ている。

2022年の秋から5回、オンラインで事前研修を実施。シンガポールで日本語を学ぶ学生は日本語で、恵泉の生徒は英語でそれぞれ自国の文化を紹介しあった。2023年3月には、20名の生徒がシンガポール国立大学を訪問。現地の学生とSDGsの課題について語り合う機会をもった。さらに、恵泉の卒業生で現地在住の先輩から、国際色豊かなシンガポールで働くことについてリアルな体験を聞き、大いに刺激を受けた。

「シンガポール国立大学には、これからのアジアを牽引していく学生が世界中から集まっています。このプログラムが、将来そうした国の人たちと一緒に働くマインドづくりのきっかけとなり、アジアで共に生きていくことについて、生徒に考えてほしいと思っています」(本山校長)

企業や大学講師と
生徒の視野を広げるプログラム

同校には多彩な探究プログラムも用意されている。高大連携の取り組みでは、卒業生の保護者でもある立教大学理学部教授を招いて、PCRによる遺伝子検査実験を行った。そのほか、東京都市大学・日産自動車と恵泉女学園の合同プログラムも実施。「スターリングエンジン」というお湯の温度差で動くエンジンを組み立てたり、女性エンジニアから直接話を聞いたりと、理系の仕事における女性活躍についても知ることができた。

平和学習のフィールドワークを行う「一日平和ウォーク」では昨年、国立ハンセン病資料館を訪問し、患者家族から話を聞いた。その後、ハンセン病問題に関するシンポジウムが開催され、訪問した生徒が発表を行なった。

創立以来「聖書」「国際」「園芸」の3つを教育の柱としている同校。

「『聖書』では、神様から愛されている自分自身を尊重すること、また同じように他者も大切にすることを学びます。『国際』では他者を理解するためのツールである英語力を身につけ、世界の平和に貢献することをめざしていきます。『園芸』では自然の恵みに感謝し、友人と共に体を動かして働くことの喜びに気づきます。この3つはすべてつながっているのです」と本山校長。

新しい探究プログラムを積極的に導入しながらも、創立以来変わらない芯の通った教育を実践している恵泉女学園。校内にはいつも凛とした風が吹いている。


過去の記事もご覧になれます
https://manavinet.com/east/2022_9keisen2/
恵泉女学園中学・高等学校 https://www.keisen.jp/