来年度より
「プログレッシブ政経」「IT医学サイエンス」といった
新たなコース制を導入し、挑戦を続ける
春日部共栄中学校・高等学校
カナダ人講師による約10日間の国内留学「Kyoei Summer English Program(K-SEP)」は中3で実施。異文化体験・異文化理解、プレゼンテーションについて学ぶ
昨年度から中間テストを廃止するなど、大胆な改革が話題の春日部共栄中学校・高等学校。建学の礎となる言葉は「至誠一貫」。その意味は「いかに困難な時代にあっても、至誠の心を一生涯貫くこと」。教育現場もいまはコロナ禍にあり、さらにグローバル化、IT化、少子化など対応すべき課題は多い。そんななか中学では来年度より2つのコース制を導入するなど、新たな試みをスタートさせ、時代に即した挑戦を続ける同校。今年4月より校長に就任した小南久芳先生と、中学入試担当委員長の牟田泰浩先生に話を伺った。
大学のその先を
見据えた教育を実践
校長の小南先生はもともと理科の教員で、同校で教鞭をとって39年。高校が開校4年目のときに着任した。
「高校の開校は1980(昭和55)年。今年で開校42年目を迎えますが、私が着任した当時と現在とを比べると、教育が社会から求められる『質』には大きな変化が見られます。しかし、変化に対応しながら、創立者の『至誠一貫』の精神は大切にしていきたいと思います」
教育理念は「個性と可能性を大切に、トータル教育で実現する人間的成長と学力推進」。さらに、校訓は「自主自律」「明朗勤勉」「協調奉仕」。
「着実に基礎学力を身につける勤勉さを大切にし、主体的に学びへ向かう生徒を育てます。また、多様な個性を尊重しながら協調性を発揮して社会貢献してほしいと願っています」と小南校長は話す。
「文武両道」をモットーとする同校。2020年度は国公立大へ90名が合格、うち現役生は84名と進学実績も伸びています。部活動の加入率は90%以上、国公立大や難関私大に合格した生徒は部活動で活躍していることも多いとか。「メリハリをつけて活動しています。勉強とのバランスもよく、うまく両立できています。全国大会へ出場する部活も複数あります」(牟田先生)
進路指導では「大学のその先へ」という言葉を掲げている。
「大学院への進学率が高いですね。また、企業で研究者として働く卒業生や、大学在学中に留学をする卒業生も多いです。知的好奇心が旺盛なのでしょう」(小南校長)
小南校長に印象に残っている卒業生を聞いたところ、「アメリカの大学に進学した生徒がいました。彼はバスケットボールトレーナーを目指し、本場でスポーツ医学を学びたいと、アメリカの大学に進んだのです。そして、彼は入学後も意識してあえて日本人とは会わず、自ら大学のバスケットボール部に飛び込み、マスコットを演じるなど、現地に溶け込みながら勉学に励み資格を習得。現在もトレーナーとして活躍しています」とのこと。
視野も世界へと広げ、「大学のその先へ」向かおうとする生徒たち。この知的好奇心をさらに育てようとしたのが、来年度から一貫生で始まる2つのコース制だ。
中学生のうちから
高度なプログラムを
2つのコースというのが「プログレッシブ政経コース」と「IT医学サイエンスコース」のことだ。「これらのコースは、中学生のうちから高い意識をもって将来に備えてもらいたいという思いから新設しました」と言うのは牟田先生。
これは通常の教育課程の授業を受けたうえで、講演会やSDGs研究などの専門性の高いプログラムを受講する。また両コース共通して行われるのが「グローバルリーダーズ」プログラム。これは新聞の切り抜きを要約、考察し、ほかの生徒に発信する朝学習「The World View」や、著名人などを招いての講演会など最先端のキャリア教育のほか、生きた英会話を身につける国際理解教育といった内容となっている。コース別のプログラムについて牟田先生に聞いた。
「『プログレッシブ政経コース』では、世界の政治や経済について学びます。特徴的なのは金融教育です。証券取引所で働いている人や銀行員などに講演してもらったり、模擬トレードに挑んだりして、将来に生かせる経済学の基礎を学びます」
また、「ビブリオバトル」でプレゼン力や表現力を鍛え、模擬国連にも参加する。さらに大使館を訪問し、世界各国の政治や経済について東大大学院生と研究することも。6年間かけて世界で活躍するベースを育むのだ。
一方「IT医学サイエンスコース」は理系での各分野で研究者や開発者としてリーダーシップをとれる人材の育成が目標。
「情報処理技術者試験など資格取得を目指す『プログラミング』や、遠心分離機によるDNAの抽出、本校保有の天体望遠鏡などを用いた天体観測など、通常の理科の授業ではできないような本格的な実験や研究を行います。本校にはNHKの『ダーウィンが来た! 〜生き物新伝説〜』にも出演経験があるカブトムシのアゴ研究の第一人者である教諭がいます。こういったユニークな先生の授業を受けられるのも本校ならではです」
2つのコースは、基本、入試の出願時に選択するが、在学中に変更可能だ。なお、「IT医学サイエンスコース」では、2科4科の入試に加え、算数1科のみの入試を予定。さまざまな個性や力をもった受験生に門戸を広げていく。
(左)本の紹介をゲーム形式で行う「ビブリオバトル」。まずは勉強合宿を行い、国語の授業や校内での選考を経て外部大会へと進む
(右)ネイティブの先生との日常的な会話の中から生きた英語を学ぶ
来年度から2期制
週5日制に移行
さらに、来年度からは2期制へ移行、完全週5日制を導入することも決まっている。
「2期制、週5日制への移行は、特に目新しいものではなく、一度2期制にした学校が3学期制に戻したという事例があることも承知しています。しかし我々は、今、教育に求められている『主体的・対話的で深い学び』や『個別最適な学び』『協働的な学び』等をより効果的に実現するために、ここでの2期制、週5日制の導入は大変有効であると考えています。
その有効性の1つに、ゆとりのある授業スケジュールの中でのスパイラル学習やアクティブラーニングの充実を図ることができること。2つ目として、長期休業が学期に組み込まれることになり、休業中の各生徒の継続的な学習に対するサポートがより可能になること。そして3つ目に適切な休養を取りながらメリハリのある部活動、バランス良く配置された学校行事や各自の探究活動を通じた豊かな人間性の涵養等、様々な効果が期待できます」と小南校長。
今年1月の緊急事態宣言の際は、「大勢での飲食は感染のリスクが高い」との懸念から、学校で昼食をとらないよう登校時間を変更。午前中は対面授業を受け、昼食は自宅でとるよう帰宅。午後は自宅からオンラインでの授業といった対策をとった。この柔軟さも同校の特徴だ。
「これからも変化を厭わずによりフレキシブルな学校にしていきたいと思います。生徒たちが本校で大いに夢を語り、その実現に向けて旅立っていけるよう我々教職員は全力でサポートしていきます」と小南校長は力強く語った。
春日部共栄中学校・高等学校 https://www.k-kyoei.ed.jp/