【新春スペシャルインタビュー】 掲載:塾ジャーナル2022年1月号

全国学習塾協同組合30周年
中小塾を支え続け、官との橋渡し役も


全国学習塾協同組合 森 貞孝 理事長


2022年に創立30周年を迎える全国学習塾協同組合(AJC)。社団法人全国学習塾協会(※現 公益社団法人全国学習塾協会)と力を合わせ、両輪となって学習塾業界を支えてきた団体だ。学習塾の経済的・社会的地位の向上を目指し、「塾・教育総合展」や「AJC総合補償制度」など様々な事業を展開。中小塾の経営のバックボーンだけでなく、国の機関と塾業界の橋渡しの役目も果たしてきた。

このアニバーサリーイヤーを迎えるにあたり、長年にわたって理事長を務めてきた森貞孝氏に設立当時を振り返っていただくとともに、現在の取り組み、塾業界の今後について語っていただいた。


30年の年月を経て
塾の社会的地位が向上

――全国学習塾協同組合が発足したきっかけは?

森貞孝氏(以下、森) きっかけは、1988年10月の社団法人全国学習塾協会の設立に遡ります。私が二代目の理事長(当時は会長ではなく理事長)を務めていた頃、全国の塾から協会に入ることのメリットをよく尋ねられました。「協会に入ったら生徒が増えるのか」「教材の情報をもらえるのか」などという要望が多く寄せられていました。

私が通商産業省(当時)に伺った折にその話をすると、「森さん、あなたが言っているのは社団法人でやることではなく、協同組合の活動そのものですよ」と言われました。ひいては「協同組合もつくり、社団法人と一緒に学習塾業界の発展のために努力をしてはどうか」と提案していただきました。

通産省が認可する全国規模の協同組合は認可してもらうこと自体難しく、「この時を逃したら二度とできない」という声も挙がり、私が設立発起人代表となって、準備を進めました。
その後、1992年2月に設立総会を行い、4月に正式に協同組合を設立することができました。

――設立から30年が経った今、塾の社会的地位は向上してきたと思いますか?

 向上したと実感しています。設立当時は「塾のおかげで子どもが高校に入学できました」と感謝してくださる方がいる一方で、「学習塾は受験戦争の元凶」「学習塾は教育ではなく商売」というイメージも根強くありました。

しかも、学習塾は当時「日本標準産業分類」に業種として分類されておらず、そのため銀行からお金を借りたくても、信用保証協会から信用保証が得られず融資を受けることができなかったのです。

確かに、学習塾業界にも問題はありました。今はほとんどありませんが、以前は異業種の方が突然塾を始め、月謝を集めたものの突然塾を閉めて、払い戻されないこともありました。協会設立の前、塾の5団体が通産省に呼び出され注意を受けたほどです。長年やっている塾は決してそのようなことがないことをアンケート調査によって証明しました。

学習塾への見方が変わったのは、私は、塾業界出身の下村博文衆議院議員が文部科学大臣になったことが大きいと思っています。教育再生担当大臣も兼任し「教育再生実行会議」なども設置されました。その頃から、文部科学省の中にも学習塾を敵として見做すのではなく、教育の世界で協力し合う仲間のような雰囲気に変わってきたのを感じています。

塾保険で補償をカバー
許認可団体加入のメリット

――現在、どんな組合としてどんな事業を行っていますか?

 一つは、情報展事業です。1992年に大阪で開催した情報展はものすごい数の来場者で、エレベーターの扉が開いた瞬間から前に進めないほどでした。現在は「塾・教育総合展 in 東京」として、毎年1月に東京国際フォーラムで開催しています。


2020年1月の「塾・教育総合展」の様子

そのほか、共同広告事業や共同購買事業も行っています。なかでも、これがあるから会員になるという声が多いのが「AJC総合補償制度」。いわゆる塾保険です。この保険は塾生1名から加入することができ、年間保険料は塾生1名110円(スタンダードコース)からと手頃です。塾と自宅の往復途中の事故、塾内の生徒同士でのケガなども補償するもので、これに魅力を感じて多くの塾に加入していただいています。

2020年11月に続いて本年10月には、「AJCでも進学相談会をやってほしい」という声に応え、「AJC中学・高校進学相談会」を東京・池袋で開催しました。

――現在の会員数を教えてください。

 会員数は約300人です。設立当初は1500人でしたので、寂しい限りです。ただ、将来的なことを考えると、業界団体に所属していることが有利になる動きが出ていることも確かです。

今、経済産業省では「未来の教室」というビジョンを掲げ、STEAM教育、EdTechを活用した効率的な学びなどの事業を進めています。これからの時代、教育が学校教育とは違う分野で進んでいくことを見据え、学習塾がその一端を担うと経済産業省は期待しています。

話は変わりますが、中国では学習塾への規制が強まっています。小中学生対象の塾の新設は認可されず、既存の塾は非営利組織へ転換、土日祝日の授業は禁止です。この規制の理由は少子化対策です。教育費の高騰を理由に、2人目以降の子どもを産むのをためらう親が多いため、学習塾の営業を制限したのです。

実は日本でも同様のことがありました。昭和30年代、予備校の数が増えた時、火災予防条例と建築基準法による基準を満たさない予備校は、一斉に営業が禁止となったことがありました。

日本でも少子化は深刻な問題です。万が一、日本でもこうした規制の動きがあった場合、その前に全国学習塾協会と全国学習塾協同組合に連絡が入ります。それが許認可団体の強みです。加えて、許認可団体に入っていることで、規制の対象から外れることも考えられます。こうしたメリットがあることも認識していただけたらと思っています。


2021年に開催された「AJC中学・高校進学相談会」

「数は力なり」
塾がまとまり大きな力に

――今後、組合としてどのような役割を果たしていきたいと考えていますか?

 組合として様々な事業を行っていますが、「民間教育を考える自由民主党議員連盟」の総会にも参加し、学習塾業界と公教育との接点をつくる活動もしています。そうした役割も果たしていきたいと考えています。

公的な団体に所属しなくてもいいという考えもあるかと思いますが、多くの塾が許認可団体に所属し、まとまっていくことが将来、官と競い合える力を持てるようになると私は考えています。

組合も30周年を迎え、教育において新しい動きが次々と出てきています。「数は力なり」です。ぜひ、組合に加入していただき、貴重な意見や声を挙げていただけたらと思います。

プロフィール
全国学習塾協同組合 理事長 森 貞孝 氏
慶應義塾大学(経)卒、私塾協議会会長、全国学習塾協会理事長等歴任。全国学習塾協同組合理事長現職。著書「英語ショック」(幻冬舎刊)
■全国学習塾協同組合 https://ajc.or.jp/


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