特別寄稿『新学期、子どもたちに必要な関わりとは?』
淡路 子育て支援教育研究所
主宰 淡路 雅夫 氏
連携の必要性
子どもの年齢は同じでも、一人ひとりの子どもにとっては、育ちの環境の違いが年々大きくなっています。3月から4月というと、学校では卒業や入学式が行われ、子どもたちには様々な心境の変化や不安が生まれる時期です。そこで、子どもの環境が変化する中で、進級した子どもがどういうところで問題を抱えているかをまとめてみます。
私は私学の教員として、長い間子どもを預かってきましたが、中学に入学してくる子どもの生活力や学習力の違いは何か。つまり、教科の点数が良い生徒と悪い生徒の差や生活意欲の違いなど、小学校時代の生活環境や学習の仕方について、保護者や生徒本人からいろいろ学んできました。
その中で特に注目されたことは、自分で考えずに、親に指示されて生活している子どもや、親に言われて勉強してきた子どもが、少しずつ増えているということです。同じ12歳でも、生徒同士の対人関係や生活面での自律心、主体性にも差が出てきています。また、生徒自身を支える個人の魅力や長所より、学習面の評価が子どもに強く影響しているのです。
生徒の中には、何度も同じ失敗をして劣等感を持ってしまう子どもや、失敗はするが、そのたびに振り返りをして生活改善している子どももいます。積極的に行動して、自分が何をしなければならないか、よく気づく力や考える力が育っている子どもは、教科の成績は上がったり下がったりするものの、結果的には上位に上がってくる傾向がありました。そこで私たち教員は、入学してくる子どもの状況や学年の指導結果を踏まえて、その生徒の持つ課題を少しでも改善する関わりを実践してきました。
また、小学校の入学式で教えられたこともあります。式が始まっても飛び回り、私語の多い子どもたちのいる中で、校長先生が何を話されるのか、式辞をしっかりと聴いている子どもたちがいるのです。しかも、その多くの子どもたちが同じ幼稚園の卒園生ということで、後日、その幼稚園の園長先生から日常の指導内容を聞くことができました。
幼児期の教育にも「幼稚園教育要領」があって指導方針が決まっていますが、幼稚園には標準となる教科書はありません。各幼稚園の指導内容は自由なのです。その幼稚園では、日常の遊びを中心にして友だちを尊重することや、子どもの主体性、協調性を育てているということです。
例えば、子どもが集まると必ず「いざこざ」が始まります。園の子どもたちは遊びを通してお互いに学び合い、いざこざが起こると教員が「どうしたらいいかな?」と、子どもたちに話し合いをさせているのです。園では、その「いざこざ」を通して友だちとの関わり方を学び、一人ひとりの園児の対人関係を育てているようです。年少の子どもは、年中や年長の子どもの遊びから、それぞれ感情を言葉にするための言葉力や仲間との交渉力、あるいは、考える力(創造力)を学んでいるのです。
園では、入園当初の年少の園児と3年後の年長の園児の集団生活に、子どもの自律心や主体性に大変大きな変化がみられるのです。また、そうした関わりが卒園後の小学校での生活にも影響していて、彼らには聴く力や対話力が育てられていますから、主体性があり友だち関係も良く、学習面での成績も上位層にいる子どもが多いということです。
ものごとを学ぶためには、何でも「振り返り」が重要です。将棋界の若手ホープ藤井聡太さんも、現在いろいろなタイトル戦で勝ち続け、注目を浴びていますが、彼が負けた時の言葉がいつも注目されます。「結果は残念でしたが、次につなげる気づきがありましたから」という言葉です。彼は常に強い棋士になるために、目の前の勝負にこだわって振り返りをし、次の勝負に備えているのです。それが、藤井棋士が勝ち続ける理由ではないでしょうか。
子どもの学びにとって大切なことは、1年間の生活やその学期で学んだことの振り返りをすることだと思います。子どもの学びは明日につなげる必要があります。振り返りの機会は子どもにとって、自己の学びの良いところや改善するところに気づいて、新たな始まりをするチャンスなのです。
しかも、自分にとって何を改善するか振り返ったところが、子ども自身が次に頑張るところ、すなわち、努力するところになるのです。その努力目標に寄り添って子どもを後押しすることが、子どもの成長発達につながることになるのです。子どもの振り返りは「やり始め」です。その機会を生かしたいものです。
人は誰でも環境が変わると不安になります。その不安を乗り越える力を日常生活で身につけることも、教科学習とともに重要なことです。特に、グローバル社会が進めば、多様な人間関係や多難な出来事にどのように関わるか、常に塾や学校の指導課題になると思います。そこで最後に、新学期に子どもたちの不安の源になっている内容を、2、3まとめてみます。
一つは集団生活です。子どもの生活を通して、仲間づくりの学びを体験しているかです。多様な社会は、とかく人間を孤独にします。しかし、人は集団に属そうとすれば、必ずといっていいほど「いざこざ」がつきものです。前述の幼稚園での関わりのように、そのいざこざを乗り越えさせて仲間づくりを学ばせること、つまり、対人関係のあり方を子どもたちに考えさせることです。集団での関わりは、幼稚園や小学校だけで学べることではありません。
私学の中に、中学に入学すると1年間座席が指定されていない学校や、3日に1回席替えをして、その日隣り合わせた生徒と一日どのように関わるかを体験させている学校があります。1年間の指導の結果は、生徒一人ひとりがいろいろな関わり方を学び、その後の人間関係やクラス運営を円滑にしているようです。
価値観が多様になり、不安定なこれからの社会において、不安が生まれたときに相談したり、助けてくれる人を得るための生活体験は、子どもの精神面を育てるためにどうしても必要なことです。ましてや、すべての人と同じように円滑な人間関係を営むことは不可能な時代です。
次に、子どもの生活意識です。子どもの生活は、できないことをできるようにする学びです。不安を小さくするためには、自分らしさを育てて、子どものできることが増えるように生活することです。具体的には、子どもの持ち味や強みを育てること、それが子どもの生きる力になり、自信にもつながります。自己肯定感という言葉はよく聞きますが、その力を具体的に育てたいものです。
さらに、子どもの受けているテストの意味についてです。新学期は子どもにとってスタートの時期です。ところが、子どもたちは多くのテストによって順位が付けられ、良い点数を取ることにこだわりがちです。その結果、子どもの中には「どうせやっても駄目だよ」と、「どうせ病」・「ダメ病」に罹り、劣等感を持ちながら新学期を迎えている子どもも少なくありません。
しかし、テストは子どもを育てるためのものです。テストは学習したことができるところと、まだわかっていないところの確認をし、子どもの生活や学習の仕方の見直しをする手段です。
子どもたちには、普段からテストの意味をよく理解させて、特に新学期などには同じスタートラインに立って、新しい生活を始めさせたいものです。そうした関わりが、子どもの「自律」にもつながり、子どもの主体性や時に友だちの力を借りて、お互いに助け合う学びにもなるのです。難関中学へ進学している子どもの多くは、生活の節目にこうしたメンタル面が育てられているようです。
新学期は子どもへ関わる、その節目の機会になるのではないでしょうか。そして、振り返りの習慣をつけるためには、特に子どもの生活の始まりと終わりが、大切な時期になると思います。
主宰 淡路 雅夫 氏
1970年から神奈川県私立浅野中学・高等学校の教諭・教頭・校長を歴任。その間、幼児教育者の養成にも従事し、長年、子どもの発達と各校種の連携について研究。現在、「令和校長塾」を開講し、教職志願の大学生の指導や幼・小・中高の私学の保護者や教員、管理職のための研修・講演活動に務めている。
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