今、なぜ女子校が再び注目されているのか!?
日能研関西 取締役 森永 直樹
女子校への注目度
2021年入試は新型コロナウイルスの影響を受け、前年よりも受験生が約100人減少し、6年連続で伸び続けていた中学受験率も昨年と同じ9.64%で足踏みとなりました。実際には、1年前の大手進学塾の生徒数から見て増えると予想されていただけに、新型コロナウイルスが何らかのかたちで影響したと推測されます。
近年、戦後最大の教育改革(特に新大学入試制度)が話題になり、中高での教育内容が見直されていく中で、対応の早さや6年一貫での優位性が注目され、私学志向が高まってきました。これは新型コロナの影響を受けている現在も変わりません。むしろ新型コロナによる休校期間中のオンライン授業などでの私学の対応が評価され、さらにヒートアップしています。数年後の受験生はかなりの規模になる可能性が出てきています。
中学受験率が高まり、新たな「私学ブーム」の兆しが見える中で、女子校も再び注目されています。中学受験率が9.00%近くまで落ち込んでいた時期はトップ校を含めた全体が受験生の減少傾向にありましたが、徐々に回復し、トップ校は安定して多くの志願者が集まるようになりました。V字回復する学校や、年々志願者数を増加させるような学校も現れるようになり、今後の動向に注目しています。
関西圏の私立女子校の多くが魅力ある教育を行っています。ここで女子校ならではの魅力について、様々な角度から紹介いたします。
近年の私学志向が高まっている要因の一つに、中学受験ブームだったころの受験生が保護者世代になっていることがあります。自身の経験から、わが子も私立中高一貫校へ進学させたいと考えているからです。女の子を持つ母親が女子校出身の場合は、わが子も女子校(できれば出身校)へと考えるケースが多いように感じます。祖母から3代続いて同じ学校というのは、男子校より女子校のほうが多いとも聞きます。私のこれまでの受験相談での経験から、母親が「娘も女子校に入れたい」と考える理由は3つあるように思います。
1つ目は、「礼法や作法」など、しつけや生活指導をきちんとしてくれるところです。学校によって規律の厳しさに違いはありますが、女子だけの環境だからこそ身につけやすいところがあるようです。
中高時代に身につけた礼法や作法が自分の一部となっており、ここぞという時に適切な振る舞いができるようになった保護者自身の経験からくるものです。生活指導においても意外なことに、「この制服にふさわしい着こなしをしなさい」という程度のルールしかない女子校も多くあります。逸脱している子を見つけたら、「それがこの制服にふさわしい髪形か、持ち物か、自分で考えなさい」というような指導で、最終的には生徒同士で「制服はきちんと着こなすのが一番美しい」という結論になり、自律していくようです。まさに女子校ならではの世界です。
2つ目は、異性がいないことでのびのびと学校生活が送れるという点です。男子がいないことで女子の特徴が発揮しやすいシーンは礼儀や作法だけでなく、勉強面でもあります。何事にもコツコツ取り組むことができるのが女子の武器であり、その事を男子に茶化されることもなく続けていくことができます。
また、女子に好まれるスモールステップ(一つずつ階段をのぼるように細かいステップを刻んでいくこと)での指導が実践されているため、女子校だからこそ伸ばしてもらえたと実感している出身者は多くいます。そして、男子校にも共通することですが、一生つきあいが続く友人がたくさんいることです。高校、大学、社会人と環境が変わるにつれてつきあう友人も変化し、学生時代から続く友人は限られてきますが、私立中高一貫校、なかでも男女別学の出身者にはつきあいの長い友人が多くいます。出身者に聞くと、のびのびと過ごすことができる環境で、お互いの「自分らしさ」を認め合えたからだといいます。
3つ目は男子がいないので、共学なら自然と男子の役割とされてしまうようなこと(例えば力仕事)も女子がやることになるので、6年間での経験の幅が広がることです。女子校の文化祭や体育祭は、「横のつながり」を大切にした女子ならではのリーダーシップのもと、女子の持つ「共感力」と「集団力」が発揮され、見る者の心が奪われるほど感動的です。
これらは、これからどんな時代になっても変わることのない女子校ならではの魅力です。
「神戸女学院」の魅力
中学受験では、保護者が主導権をもって志望校を決めています。これは受験生である小学生が、自身で決めるほどの判断力を備えていないからです。保護者が学校見学に連れていったときに、生徒自身が「ココに決めた」とか「ココを受験したい」と口にする学校は決まって女子校です。女子の感受性の豊かさからくるという面があるのかもしれませんが、私は女子校の持つ「空気感」がそうさせるのではないかと考えています。
女子の心を捉える「空気感」を持つ学校といえば、関西を代表する名門私立女子校の神戸女学院です。人気も入試の難度でも関西圏で一番の女子校です。神戸女学院の岡田山キャンパスは「日本一美しいキャンパス」と言われています。2014年の秋にヴォーリズ博士の設計によるキャンパスの中の校舎群が国の重要文化財に指定されました。ヴォーリズは校舎の設計だけでなく、東京ドーム3個分の広さの里山に、どのように建物を配置するかということを熟考して、自然との調和のとれたキャンパスをつくり上げています。校舎の雰囲気とともに図書館新館前に位置しているシェークスピア・ガーデンや、ソールチャペルがまさに「空気感」をつくりだしています。
保護者から神戸女学院の教育がどう素晴らしいのか聞かされて学校見学に来ていることが前提であっても、このキャンパスに入って歩いているうちに生徒自身が「この学校に入学したい」と口にしてしまうのは神戸女学院だからなのです。
神戸女学院の魅力は「空気感」だけではありません。あえて女子校に共通している点で紹介すると、「上を見て育つ文化」が受け継がれているところです。制服も校則もない神戸女学院では、体験を通して自分で気がついて行動することが求められます。入学したばかりの生徒は先輩たちの振る舞いを見て多くのことを学びとっています。実際には毎朝の礼拝で学ぶ機会が多く、礼拝での先輩たちの課外活動(数学・理科甲子園ジュニア大会など)や留学の報告から、「そこで得たことが何か」「この経験を今後にどう生かしていくのか」を聞き、「自分だったらどうなのか」「自分には何ができるか」と考えるようになっていきます。
もう一つは英語教育です。女子校の多くが英語教育に力を入れており、英語に興味があったことがきっかけで女子校を選ぶことにつながっています。英語が4技能を総合的に評価するようになったことでより注目されるようになっています。
神戸女学院教育の代名詞というべき存在が「クルーメソッド」と呼ばれる英語教育です。ミッショナリーであったアンジー・クルー先生が、1930年からの34年間で、それまであった英語教育のノウハウを中学部・高等学部それぞれの生徒たちに合うように工夫し、まとめあげられたもので、単に日常会話ができるというのではなく、「自分の意見を自分の言葉で表現できる」「相手の意見を聞き、同意したり反駁したりできる」「英語論文を読む・書く」の3つの能力を養うためのカリキュラムです。
ネイティブ教員も日本人教員も原則として日本語を使用せず、入学後、生徒たちはあたかも母国語のように英語を学ぶ環境に置かれます。徹底的な発音指導に始まりペアティーチングでネイティブ教員と日本人教員が交わす対話を通して英文とその意味を理解し、日本語に置き換えず自然に英語を身につけます。
伝統の独自シラバスに従って高度な「聞く」「話す」を身につけながら自主教材で「読む」「書く」力もあわせた4技能を養っています。生徒たちの実力を紹介すると、実用英語検定の受検は生徒の希望に任されていますが、受検した生徒は中3までにほとんど全員が2級に合格、高1・高2の多くが準1級に合格しています。
また、先生に伺った話では、高3は6年間の学習成果として「TOEFL ITP LEVEL1」を全員が受験していて、677点満点中、神戸女学院生の平均点は480点前後だそうで、高校生の平均点が400点程度、大学生が460点くらいなので、かなり高レベルです。アメリカの大学の留学基準点である550点以上がおよそ1割強で、大学院留学の基準である600点超えも数名おり、全国でもトップクラスです。
また神戸女学院では高校生になると、英語に加え、フランス語やドイツ語の選択授業も受講でき、豊かな言語体験を広げています。
冒頭にも近年の私学志向の高まりについてふれましたが、大学入試制度が変わることがきっかけになったことは間違いありません。そこに向けた私学の対応の早さに期待が集まり、その教育の中身が注目されるようになりました。保護者世代にはなかった「探究的な学び」に関心が寄せられ、何年も前から準備が進んでいることや、6年一貫教育の中でじっくりと取り組める点で私学が優位と捉えられています。
この「探究的な学び」が評価されているのが、関西圏の中学入試で最も多くの志願者が集まる女子校の帝塚山学院(大阪市住吉区)です。
探究学習の成果が、大学の推薦入試に結び付いています。京都大学の特色入試で農学部に合格した生徒は、この探究学習を通して学ぶ目的を見つけ、その意欲が自分を高めるきっかけとなり、入試でも高く評価されたようです。探求学習で求められるいくつかの要素に「主体的に学ぶ」ことと、「将来の進路選択にもつながる」ことがあります。まさにこれを体現した結果といえます。
この帝塚山学院の教育の柱とも言えるのが、6年にわたる本格的探究学習です。「新たな時代を創り、社会に必要とされる女性として、つよく生き抜く力を養う」をスローガンにしたオリジナルの講座で、10年前から開講されています。どこよりも早く「探究的な学び」を重視し、取組み続けてきたことが、ここでの成果につながっています。
中学3年間で学ぶ「創究基礎」では、「見つける力」「調べる力」「まとめる力」「発表する力」の養成を目指し、14のスキルを身につけます。中1では、「声を出す」・「聞く力をつける」など、中2では、「プレゼンをする」・「自分新聞」などの作成、中3では、簡単な「ディベート」までと、段階的に新しいスタイルの学習で成果が上げられるように工夫されています。
高校から始まる本格的な「創究講座」では、「経営」「医療」「心理」等の9つの学問体系に分かれており、大学や企業から講師を招いて、生徒たち自身が、学年ごとに興味のある分野を選択して学びを深めています。「医療」を選択した生徒は自分の興味のある「再生医療の可能性」について、「経営」を選択した生徒は、自らの親戚が経営する「旅館の再生方法」というように、全員が自ら選択したテーマについて、自ら調べ、議論し、最終的には「卒業レポート」としてまとめたものを発表して卒業していきます。
帝塚山学院の探究学習に取り組む生徒の姿を見て、この学びはもしかすると女子校向きなのではないかと感じるようになりました。もちろん中学でそのための基礎(特に聞く力)をしっかりと学ばせていることが大きいのですが、女子が持つ「共感力」や「協働力」をうまく引き出し、全員が一人ひとりの探究活動を応援しているように映ります。こういった雰囲気を創りだせるのは女子校だからではないでしょうか。
東京オリンピック大会組織委員会の森前会長の女性蔑視発言を皮切りに、女性の活躍の場が不足していることや女性の社会進出を支援する施策がまだまだ遅れていることが浮き彫りになりました。日本の場合、役員に女性の占める割合はわずか数パーセントで、OECD諸国の中で女性の活躍率は最低ランクです。見方を変えれば、女性が活躍する余地がまだまだあるということではないでしょうか。
ノルウェーでは上場企業の役員比率において、どちらかの性別が40%を下回らないようにする法律ができ、数年で達成しています。日本でもこれから先、女性の雇用拡大は急速に進み、それによって社会が女性に求める期待や役割が変わってくると思われます。
女子校の魅力にふれながら、しなやかさをもった女子ならではのリーダーシップが求められる時代の到来を予感しています。そして私立の女子校が特長のある教育を未来へむけて進化させることで、さらに女子校教育への期待が高まっていくことを願っています。