新型コロナウイルスで大きく変わった2021年度中学入試
何がどう影響したのか? 受験専門家が詳しく分析
新型コロナウイルスで大きく変わった2021年度中学入試
イラスト:「麻子とトト」の啓蒙イラストより
株式会社声の教育社 三谷 潤一
首都圏を中心に過去問題集や受験案内を出版する株式会社声の教育社。1962年の設立以来、60年にわたり事業を展開している。現在は中学入試・高校入試を合わせて500校以上の問題集を刊行。さらに著名講師によるオンライン過去問題指導を行い、YouTubeの「声教チャンネル」では最新の情報を発信するなど、受験生の間では知らない人はいない存在である。受験動向に関するスペシャリスト、同社営業部の三谷潤一氏に、今年度の中学入試について詳しくうかがった。
2021年度の中学入試
――受験生の数に変化がありましたか。
三谷 潤一 氏(以下、三谷) 新型コロナウイルスの影響により、受験生の数が減少すると予測していたのですが、実際には減りませんでした。首都圏の中学入試の受験者数は、微増ですが7年連続で伸びています。一般的に、中学入試を目指す児童は小学4年ごろから時間をかけて受験勉強をします。ですから、新型コロナ禍になったからといって受験を取りやめるケースは少なかったのだと分析しています。
――新型コロナの影響はなかったのでしょうか。
三谷 受験者数は減りませんでしたが、志望校の選択に大きな影響が出ました。全国的に知られる超難関校は、例年ですと遠方からの受験生もいました。しかし、今年度は地方からの志望者が減っています。新型コロナの感染を恐れ、遠征受験に不安を抱いたご家庭が多かったようです。
また、小学校の長期休校や夏休みの短縮により、塾は授業時間を確保するのに苦心されました。家で過ごす時間が増えたことで自習習慣のついていない児童は十分な受験勉強ができていなかったようです。そのため、過去の入試問題を解いても得点できず不安を感じた生徒や保護者が、より合格しやすい学校を選択するケースが多かったと判断しています。1月の「お試し受験」から、この安全志向が見られました。
――入試問題は変わりましたか。
三谷 新型コロナの影響で、入試問題は例年と比べて少し簡単になったところがありました。問題数が減ったり、記述問題も少なくなったりしたケースが学校の合格偏差値を問わず幅広く見られました。しかし、この変化が受験生に有利になったかと言うと、そうでもないのです。問題が簡単になると平均得点が高くなり、合格ラインが上がります。その結果、手応えを感じても不合格になってしまうケースがありました。まさに1点の差で合否が分かれる状態と言っていいでしょう。
難関校は受験者が減少
――人気を集めたのはどういった学校でしょうか。
三谷 最も目立ったのは共学化・募集再開校の広尾学園小石川(旧:村田女子)で都内最多の3800人が応募しました。近年人気を集めている大学の附属校では減ったところもありましたが難度は下がっていません。新たに午後入試を導入した学校や入試回数を増やした学校、そして校名変更や新設校など何らかの動きがあった学校は志望者を増やしています。
――附属校の人気は堅調なのですね。
三谷 附属校人気は変わらず続いています。明治学院の男子は2月4日の3回目入試で競争率22倍を記録しました。またここ数年GMARCHと言われる難関私大(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の附属校が人気でしたが、今年は学校によって増えたところと減ったところとがあります。難度が上がり一部敬遠されたようです。日大系は昨年に続き受験生を集めました。また、受験生の安全志向の強さから、中堅上中位校の競争率が上がったのです。特に男子校で顕著でした。
安全志向が強まったのは、2年前に小6人口が増え中学受験率も増加したことから実倍率上昇校が目立ってきたことが挙げられます。3年前なら合格していたはずの中堅校の難度が上がってしまったんですね。加えて、コロナ禍の影響で学力に不安を感じたご家庭が、さらに確実に合格する学校を選ぶケースが増えたのだと考えています。
昨年あたりから、3、4回目入試の競争率が高騰しています。先ほど申しました明治学院の3回目入試の男子は受験者89人のうち、合格したのはわずか4人です。受験生の増加で「どこかには合格できる」という状況はなくなり、従来の常識が通用しない時代になったと私どもも驚いています。
――午後入試の状況はいかがでしたか。
三谷 日大豊山の2月3日午後入試だけで200人近く応募が増えました。611人中、合格したのは61人。競争率10倍です。弊社が出版した同校の過去問題集は、品切れになるほどの人気でした。獨協は2月1日午後入試を導入しました。人気が上昇したため、2月4日の第4回入試では受験者311人のうち、合格したのは50人。こちらも6倍以上の競争率になりました。コロナ禍でほぼすべての学校がネット受付になり、入試日直前でも出願が可能になったことから、入試日直前の「駆け込み受験」も増えました。便利な反面、入試動向が見えにくく、後半になるほど入試直前に応募者が激増、「あんなに実倍率が高かったら受験しなかったのに」と、後から気がつくことも少なくなかったように思います。一方で、有名難関校ではチャレンジ層を中心に受験生を減らした学校が多かったのですが、大学附属校と同様、難度は下がっていません。
――新設校などの動きはいかがですか。
三谷 新設された川口市立は市内在住の生徒限定で581人が応募、80人定員で応募倍率7・3倍でした。共学化した3校はいずれも人気を集めました。先ほど触れた広尾学園小石川は系列校の広尾学園を上回る応募者を集めました。校名を変更し共学化、学習カリキュラムを一新した光英VERITAS(旧・聖徳大学附属女子)や、人気の高い男子校から共学化した芝浦工業大学附属も応募者を大きく増やし実倍率も上昇しています。話題になった「オンライン入試」を導入した昭和学院、「タブレット入試」を導入した青稜も受験生を集めました。新しい教育に対する保護者の期待が反映された結果だと考えています。
次年度に向けてどう準備するか
――印象に残った出来事はありましたか。
三谷 コロナ禍ということで、説明会をオンラインで開催した学校がありましたが、そういった学校では志願者が減少したところもありました。保護者はより確かな情報を求めています。学校を訪問して校風や授業内容を十分に把握した上で、志望校を決めたいのは当然です。しかし、オンラインでは詳しい情報がつかみにくい。ですので、あえて対面型の説明会を実施した学校は成果をあげています。おかげさまで、弊社の中学受験案内や高校受験案内はすべて品切れになりました。受験生や保護者がネットの情報だけでは不安を感じ、受験案内をお求め下さったのだと思いますが、活字の力を再認識させて頂きました。
――変化の大きな年でしたが、今後の動きはいかがでしょうか。
三谷 入試が無事に行われるのか心配されましたが、感染者を出すことも入試の中止や会場変更もなく実施できたのは良かったと思います。コロナ禍がどうなるかわかりませんが、今後の指針になるものだったと思います。社会の変化に伴い、児童の適性を様々な視点から評価しようということから入試も一部で多様化していましたが、コロナ禍がその動きを加速させるかもしれません。公平性を保てるかが疑問視されたため、オンライン入試はごく一部の学校で小規模の実施となりましたが、海外在住の帰国子女入試などのニーズはあるので今後も検討されるように思います。また、コロナ禍でいち早くオンライン授業を始めた私立中学は、やはり成果を出しています。公立が授業を休止する中、学びを止めることのなかった私立。ですから今後も私学志向が増えると予想しています。
――次年度入試に向けてどんな準備をすれば良いでしょうか。
三谷 今後も中学入試は緩和しそうにないので、受験生は家庭学習習慣を定着させ基礎学力を身につける、といった当たり前のことがまず大事です。併願の仕方が年々難しくなっていますが、早めに合格を確保するに越したことはありません。複数回入試実施校は多いですが、もし合格を確保していないのなら後半日程は第一志望であっても合格しやすい他の学校を受験した方が良いかもしれません。以前なら2月1日は第一志望校を受験するものでしたが、最近はそうでもなくなってきました。教育のあり方も多様化していますので、難度にこだわって視野を狭めず、幅広く情報を集めて数多くの学校を知ることが重要になるでしょう。
また、今年度は問題が一部やさしくなりましたが、これは一時的な傾向だと考えています。次年度は通常の難易度に戻る可能性が高いので、十分に入試対策を行なってください。
――今年度から大学入試が変わりました。影響はありますか。
三谷 大学入試が思考力や表現力を問う内容に変わりました。大学の合格実績が影響するのは当然ですが、新たな問題に対応した指導を行なう学校は受験生を集めるでしょう。ただ、偏差値だけを基準にするのではなく、過去問題をしっかり見て出題傾向を把握する必要があります。その上で相性の合う学校を選んでいただきたいと思います。
――本日はありがとうございました。