今春、「グローバルクラス」1期生が卒業
多彩な進路選択をサポートする実力進学校
大谷中学校・高等学校(京都府)
大谷中学校・高等学校は創立147年を迎えた。学校理念の「樹心」は親鸞聖人の「心を弘誓の仏地に樹て」という言葉にちなむ。「この世に生をうけ、生かされているという基盤に立ち、自他のために精一杯生きよう」という呼びかけだ。近年はこれを現代風に読み替えた「TO BE HUMAN=人となる」を教育目標に掲げている。今春、国際教育クラス「グローバルクラス」の1期生が卒業し、それぞれの未来に巣立った。新しい教育環境や学習カリキュラムを積極的に取り入れるねらいと成果を広報センター部長の髙間秀章先生に伺った。
高校グローバルクラス1期生が卒業
国立大進学含め全員が希望進路実現
JR・京阪「東福寺」駅から徒歩5分のキャンパスは近年、大がかりなリニューアルを進めてきた。メイングラウンドを人工芝製に一新し、新講堂「樹心閣」、新体育館「智身館アリーナ」が完成。郊外の亀岡市にナイター設備のある野球グラウンドも開場し、生徒が豊かな学校生活を送れるように進化し続けている。
学習・進路指導では、高校に4つのコース・クラスを設けて多様な進路実現をサポートする。難関国公立大を目指す「バタビアコース・マスタークラス」、難関私大を目標とする「バタビアコース・コアクラス」、クラブ活動と進学の両立を目指す「インテグラルコース」。そして国際教育に特化して2019年度に新設した「バタビアコース・グローバルクラス」からは今春、第1期生が卒業した。
このグローバルクラス創設のねらいは国際化社会で活躍できる基礎を育てること。英語強化だけではなく、世界の問題に目を向け、自身の考えを持って発言し、議論できる力をつけるカリキュラムを実践してきた。広報センター部長の髙間秀章先生は「まず日本の歴史や伝統を知り、それを発信できるように、日本文化を理解する体験学習に力を入れていきました」と言う。
京都には、そうした学びの素材が数多い。祇園祭の由緒や浴衣の着付け、和食、茶道などを学び、英語でプレゼンテーションするアクティブラーニング型の授業を多く取り入れている。こうした英語、国語、社会の要素を持つ横断型の学びはグローバルクラスならではだ。
また、高校1年次と2年次に1ヵ月間、アメリカ留学の機会もある。残念ながら1期生はコロナ禍のため留学を実施できなかったが、全日本高校模擬国連大会に参加し、世界の課題について英語で堂々とディスカッションした。
「日本の高校生は引っ込み思案で、自分の意見を言いたがらない傾向がありますが、グローバルクラスの体験型授業で培った表現力を発揮してくれました」と高間先生。その成果は大学受験でも実り、1期生10人は全員が志望校に合格した。それぞれの進路は国立大2名、関関同立6名、京都女子大1名、京都芸術大学1名と多彩だ。
また総合型選抜(旧AO入試)や指定校推薦に合格したケースも多く、高間先生は「日頃からプレゼンテーションやディベートに取り組んできたことが面接で評価されたのだと思います。外国語学系の学部だけではなく、国際関係の学部や芸術大学に進学した生徒もおり、多様な進路選択ができるクラスだということを証明してくれました」と喜ぶ。
コロナ禍が一段落した今年度はアメリカ留学を実施し、3年生がカリフォルニア大学デイビス校で大学の講義を受講したり、同大学の学生とグループワークに取り組んだりした。また、ジャパンディを開催して、琴の演奏や書道、折り紙などを披露する場面も。
高間先生は「現地の学生と英語で屈託なく交流したと聞いています。とても頼もしく感じました。これからはさまざまな職場で、国際的な競争力や外国人スタッフと協働できる力を持つ人材が必要になるでしょう。今後は経済学部や商学部、法学部への進学を希望する生徒も出てくると思いますので応援していきます」と期待している。
グローバルクラスの生徒が1ヵ月間のアメリカ留学を体験。現地学生との交流イベントで日本文化を紹介
充実した高校生活と進学の両立を目指す
バタビアコースとインテグラルコース
バタビアコース・マスタークラスは、先取り学習で高校2年までに高校3年間の学習をほぼ終えて、最終学年はじっくり入試演習に取り組む。推薦入学ではなく一般入試にチャレンジする精鋭クラスで、昨年度は京都大学、大阪大学、神戸大学、京都府立医科大などの難関国公立大に合格者を出した。勉強のかたわら文科系クラブや生徒会活動に励む生徒も多いのは自由闊達な校風ならではだ。
バタビアコース・コアクラスは習熟度別授業が特長だ。得意科目は上級講座を受講し、苦手科目があれば標準講座で強化できる。丁寧なカリキュラムで一人ひとりをフォローし、昨年度は半数以上が関関同立、産近甲龍仏の難関・上位私大に合格。国立大や私大薬学系にも合格者を出している。
インテグラルコースは、クラブ活動に本格的に打ち込む生徒たちが高い進学実績を維持している。クラブ活動での成果や勉強との両立が評価されて、指定校推薦、協定校推薦で合格を勝ち取るケースが多いが、高間先生は「今後は一般入試にも積極的に挑戦してほしい」と言う。このため、これまで導入していた基礎力を診断するタイプの模試から、受験に特化した河合塾の全統模試に切り替える。より文武両道のコースへと発展していきそうだ。
進学実績を伸ばし続ける一方で、同校の進路指導は、どのコース、クラスにおいても大学のネームバリューに捉われないことを旨としている。例えば、高間先生が高3の担任をしていた当時、応用バイオ系の研究は山形大学がリードしており、教授陣や施設もハイレベルだと提案し、入学した生徒がいる。また、家族が耳を患った生徒が「人工内耳を開発したい」という志を持っているのを知り、担任教諭がその研究をしている大学を探し出して合格したケースもある。
「私立高校ですから有名大学に多く合格者を出すのは大事なのでしょうが、それよりも生徒が描いている将来像に合う進路を実現することが大切です」と高間先生。この方針を全教職員が共有している。
ICT環境を整え学びの機会が広がる
中高一貫6年間ならではの成長を期待
教育環境のICT化は以前から進めており、現在は全教室にプロジェクターと電子黒板を導入し、校内のWi-Fi環境を整備。中学・高校の全生徒が各自のタブレット端末を持ち、探究型学習の情報収集やプレゼンテーションの資料づくり、課題の提出などに活用している。学校側も出欠の管理や連絡事項の配信、また成績の管理・分析をICT化している。高間先生は「在校中の定期試験や模擬試験の成績と進学先のデータを蓄積していくことで、進路指導の有効な資料にできそうです」と期待する。
充実したICT環境を活用し、コロナ禍で休校や欠席が相次いだ時期には授業をオンラインで配信して、学びを中断させなかった。また、同校が大切にしている毎週の学校行事、講堂礼拝は講堂「樹心閣」に全生徒が集まり、合掌ののち心静かに教諭の講和を聞く営みだが、これもコロナ禍の三密を避けるために各教室に配信し、続けることができた。
(左)全生徒がタブレット端末を持ち授業に活用している
(右)一昨年、竣工した冷暖房完備の講堂「樹心閣」。換気ができるので学校行事や受験を安全に行える
こうした取り組みや大学進学実績が知られるようになり、中高6年間を大谷で学びたいという中学受験の志願者が増加中だ。中学には2クラスがあり、国公立大学進学を目指す「バタビアコース・マスターJrクラス」では先取り授業で中学2年次までに中学の学習内容を学び、中学3年で高校の学習を始める。もう一つの「バタビアコース・コアJrクラス」は難関私大をねらうクラスで、両クラスとも早くから目的意識を持って学んでいる。
また高校では、中学から内部進学した生徒と、高校入学の生徒の混成クラスにして、人間関係の幅を広げ、新しい友情が生まれるのを期待している。ただし、授業は内部進学生の方が先取り学習で進んでいるため、内部進学生と高校入学生とで別のカリキュラムで受講する。とはいえ、大谷高校の入試は例年、志願者が3,000人を超えており、高校からの入学者も難関受験を突破してきたポテンシャルの高い生徒たちだ。両者は互いに刺激を受けながら高校生活を送り、絆を深めていく。
ちなみに、同校のコース名になっている「バタビア」の由来は、1880年代にアメリカ・ニューヨーク州バタビア市で始まった授業のスタイルで、授業中の教室に2人の教師がいるのが特長。教壇には教科担当が立ち、教室の後ろではクラス担任が学習につまずいている生徒がいないか見守る。常に生徒に寄り添い、生徒の不安や悩みを見逃さないための取り組みだ。同校が1960年に日本で初めて取り入れ、今も中学校で受け継がれている。
制服リニューアルには生徒の声を反映
多様なライフスタイルに添う新デザイン
今年度、同校は中学・高校の制服を一新し、注目を集めている。特に中学男子の制服は全国的にも少なくなっている詰襟スタイルだっただけに、伝統校がブレザーに切り替えたのは話題になった。この思い切った決断をしたのは、ジェンダーやLGBTQについての理解が深まりつつある今、制服のありようが問われていると受けとめたからだ。
今春、中学・高校の制服をリニューアル。生徒の希望を反映してデザインを決定し、男女とも多様なコーディネートができる
新制服は学校主導ではなく、生徒会と話し合いを重ね、複数のサンプルを展示して生徒にアンケート投票もしてもらい、検討の末に決めた。シャツは基本の白の他にもカラーバリエーションがあり、女子もスラックスを選択できる。装いは自分らしい生き方の一つ。この制服を通して多様なライフスタイルを認め合うことは、同校の学校理念「TO BE HUMAN=人となる」にもつながる。
「この学校理念は生徒だけのものではなく、私たち学校職員も常に心に留めています。生徒と私たちが互いに尊重し合いながら、ともに学び、成長できる学園であり続けたいです」と高間先生は言う。古都の伝統校は、新しい社会の空気を呼吸しながら、創立150周年にむけて歴史を積み重ねている。
大谷中学校・高等学校 http://www.otani.ed.jp/
過去の記事もご覧になれます
https://manavinet.com/west/otani/