マナビネットオープンスクール2023 ●掲載:塾ジャーナル2023年9月号/取材:塾ジャーナル編集部

高大連携の薬剤師・教員養成プログラムが話題
自分を見つめる心の教育、
将来を見据えた進路指導が二本の柱

東大谷高等学校

「人間教育をする進学校」として、親鸞聖人の教えを礎に「報恩感謝」の心を育む東大谷高等学校。「朝に礼拝 夕に感謝」の校訓の通り、宗教的情操教育を行い、115年にわたって社会に貢献できる人材を育成している。泉ヶ丘に校舎を新設し男女共学校となって10年が経過、ICT環境が整った校内設備と教員の努力でコロナ禍も乗り切った。近年独自の高大連携プログラムの認知度が上がり、話題を集めると同時に、「10年未来プロジェクト」で希望進路を実現する生徒が増加。その取り組みを長尾文孝校長に聞いた。


心穏やかに1日をスタート
「瞑想の時間」が心を育てる

創立以来、人としての芯をつくる心の教育を続けてきた東大谷高等学校。朝礼・終礼には、バッハの名曲「G線上のアリア」が流れる間、生徒も教師も皆静かに瞑想し、自身の心を見つめる。コロナがあけてからは学年単位の講堂朝礼も従来通り実施している。

「仏教学校ならではの教育のひとつが、この瞑想の時間です。静かに目を閉じることで、自分や人との関わりについて考え、人に助けられて生かされているということに気づいてほしい。それが、本校の「報恩感謝」という建学の精神に繋がっていくと思っています。これは今後100年もずっと続けていかなければならない教育だと感じています」(長尾校長)

講堂朝礼では教員が壇上に上がり、それぞれの思いを5分ほどのスピーチで生徒に伝えている。生徒たちはその内容をいったん受け止め、それぞれの心の中で感じていく。

宗教の授業では「感話(かんわ)」が行われる。授業の初めに、生徒数名が自分の経験や思いを前に出て2~3分で話すものだ。発表した友人の話を自分のこととして考えることで、自身を見つめ直す時間が生まれるという。

本山の東本願寺では「報恩講」など、年間を通してさまざまな宗教行事が行われ、その中にも「生徒感話」がある。信徒の前で、関連学校の生徒たちが 5分ほどの話をする。「良いお話をなさっていました」とお礼の電話をもらうこともあるという。生徒が自分の気持ちや気づきを、大勢の前で言葉にして話すことで、 本人の中にも何らかのフィードバックが生まれる。こうした試みのすべてが、心の教育に大きく影響している。

夢を見つけ、目的のために学ぶ
3つのコースと「10年未来プロジェクト」

東大谷高等学校には3つのコースがある。国公立・難関私立をめざす「特進コース」、国際社会で活躍する人材を育てる「国際コース」、併設大学・有名私大をめざす「進学コース」だ。特進コースの現役国公立合格率は、昨年の17・1%に比べ26・1%と大幅にアップ。他のコースも合わせ、関関同立の合格者が2年連続で50名以上となった。併設の大阪大谷大学への学内推薦制度も充実しており、希望の進路を実現できる環境がある。

高い進学率を支える要因としては、年2回の基礎学力テスト等による学力向上の徹底もさることながら、同校独自の「10年未来プロジェクト」と、6年前に導入された「フォーサイト手帳」があげられる。

「10年未来プロジェクト」は、生徒が自分の未来を見据え、目標に向かって学ぶ習慣を形成する授業で、1年次に週1回開講される。キャリアガイダンスや分野別の進路説明会などが行われ、自分の未来を真剣に考える時間が提供される。生徒は1年生の段階で文系・理系の違いや、大学入試方法等の具体的な知識を得ることができる。キャリアガイダンスでは卒業生が自身の学習方法や進路決定について話し、経験者から話を聞くことで自分の未来を具体的にイメージする手助けとなる。

このプロジェクトによって、自分の将来をしっかりと考え、未来でやりたいことを実現するために大学を選び、あきらめず受験に挑む生徒が確実に増えているという。もちろん、教員も面談を重ね、徹底したサポートを行なっている。

さらに、入学とともに配布する「フォーサイト手帳」の利用を促し、生徒自身で時間管理と計画作りを行えるようフォローしていく。希望の進路に向けて必要な学びのレベルを自覚した生徒が、細かな目標設定や時間管理をPDCAサイクルで回すことによって自学自習へと導く。教員たちは、手帳のコメントへのフィードバックで生徒とのコミュニケーションを行い、それが生徒たちのやる気の継続につながっているという。手帳の活用は、積極的な学習への強いサポートとなっている。

高大連携プログラムの認知度アップ
専属教員のきめ細やかなサポートも

進学コースの中には独自のプログラムとして、併設の大阪大谷大学と連携した「9年一貫薬剤師育成プログラム」と「7年一貫教員育成プログラム」があり、大谷学園の建学の精神「報恩感謝」の心を備え、「心ある薬剤師」「心はぐくむ教員」を育てている。後発の教員育成プログラムも今年で3学年が揃い、いよいよ来年、第1期生が大学へと進んでいく。

両プログラムともに、1年次は大阪大谷大学の先生や卒業生による特別セミナーなどで、薬剤師や教員となる土台を育む。2・3年次では、大学で必須となる基礎力を養うために必要な課外特別授業を組み込む。薬剤師育成プログラムでは理科(化学・物理)、数学の授業、教員育成プログラムは英語力強化講座や教職基礎講座、人間力育成プログラムなどを実施する。

さらに、9年・7年という長い期間、生徒たちの学習やメンタルをサポートするために、昨年より高大連携専属のスタッフを配属した。生徒たちとの定期的な面接や、さまざまな相談にのることでモチベーションの維持を図る。また金銭的な優待制度も設け、薬剤師や教員をめざす生徒を強力にバックアップしている。

「昨年の学校案内イベントでは、興味をもってプログラムの内容を聞いてくるお子さんと保護者が多く、認知度が高まっていることを実感しました。今年の入学生には両方のプログラムを希望する生徒も出てきており、周囲の期待を感じます」(長尾校長)。

今年度からは学校行事も通常通り行う予定という長尾校長。

「生徒主体の行事を増やしていきたい、そのために生徒会を活性化させたい」と未来を語る校長の姿に、東大谷高等学校の新しい息吹とさらなる進化を感じる。


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東大谷高等学校 https://higashiohtani.ac.jp/rs/izumigaoka/