4つのセンターが学校生活と学習をサポート
先進的な英語授業「5ラウンドシステム」を実践
大谷中学校・高等学校
今年、創立148年を迎える大谷中学校・高等学校は、学校法人真宗大谷学園が運営する京都の伝統校だ。親鸞聖人の言葉「心を弘誓の仏地に樹て」にちなみ、学校理念を「樹心」とし、近年はこれを現代風に読み替えた「TO BE HUMAN=人となる」を教育目標に掲げている。国公立大、難関私立大へのめざましい合格実績を誇る進学校としても知られ、志願者を増やしている。この学園の自由で楽しい学校生活を見守る4つのセンターと、新時代に求められる実践的な英語力を育てる英語授業「5ラウンドシステム」について聞いた。
改革や斬新なメソッドを積極的に導入
自由と自主性を重んじる学園風土
古都・京都で、浄土真宗の教えに基づく教育に取り組む伝統校──。そんな歴史ある学校イメージの一方で、改革や新しいメソッドの導入に積極的な学校運営でも知られる大谷中学校・高等学校。
例えば、教科担当教諭とクラス担任の2人制で、授業内容につまずいている生徒がいないか見守る「バタビアシステム」を1960年に日本で初めて導入。今も大谷中学校で実践している。大谷高校では、2019年度に国際化社会で活躍できる人を育てる「バタビアコース・グローバルクラス」を開設。英語強化だけではなく、世界の問題に目を向け、自身の考えをもって発言し、議論できる力をつけるカリキュラムを実践している。
さらに、昨年一新した中学・高校の制服は、生徒が複数のデザイン案に投票し、ジェンダーフリーなスタイルに決まった。
このように一人ひとりを尊重し、自由と自主性を重んじる学園風土を、かけ声だけではなく組織を設けて育み、見守るのが、「学習支援センター」「生徒支援センター」「宗教・国際センター」「入試広報センター」の4センターだ。
この4つのセンターについて、学校長の飯山等先生は「大切にしているのは、指導ではなく支援することです。学校生活や希望進路実現を応援し、学習やクラブ活動に自信をもてない生徒がいたら、かけがえのない自分に気づいてもらい、生徒を守る役割もあります」と説明する。
「宗教・国際センター」については、「仏教教育と国際交流を同じ組織が担当しているのは意外だとよく言われますが、本校の教育の礎を築いた親鸞聖人は、インドや中国の仏教を学んだ鎌倉時代の国際人ですから、この二つは通じるところがあるのです」と考えている。今回は、各センターの先生方に、それぞれの機能や取り組みを聞いた。
「学習支援センター」には、教務部・学習指導部・進路指導部の3セクションがある。
教務部は授業のカリキュラムを組み立て、学習指導部は授業の充実を図り、模擬試験や夏期講習を運営する。これらの成果として、希望進路実現を支援するのが進路指導部だ。
同センター長の奥島寛先生は、「この3つの部署が情報と課題を共有し、連携しながら生徒をサポートできるように努めています」と話す。
教務部長の川西大祐先生によれば、「教務部は授業の枠組みを作り、生徒が希望進路を実現するためには、どの科目を選択するのが良いかを情報提供しています。教務部によく生徒が相談に来るのは、本校ならではじゃないでしょうか(笑)」。面倒見の良さで知られる大谷学園らしいエピソードだ。
学習指導部長の江藤由布先生は、授業のレベルアップのためのユニークな取り組みを始めている。そのひとつが、教諭が他の教諭の授業を見学する「授業見学ウィーク」の実施だ。「研究授業として作り込んだものではなく、普段の授業を互いに見学して、高め合う機会にしたいと考えました」と話す。
もうひとつ、「ICTスリーミニッツ」と名付けられた取り組みでは、職員会議で3分間の時間を使い、ICT教材のレクチャーをして授業への導入を推進している。
進路指導部長の梶喬一先生は、「進学実績は注目されるデータですが、本校は難関大学の合格者数を強調するPRはしていません。それよりも生徒が納得し、満足して進学できる進路指導を大切にしています」と話す。
多様化する大学受験に対応するため、全国のキャンパスを訪ね、情報を集める。学園校舎に50大学70学部以上を招いての説明会は、学校主催でこれほど大規模なものは類を見ない。この説明会には中学3年生および高校1・2年生が参加し、将来の学びのテーマを見つける機会になっている。
「生徒支援センター」には、生活指導部・特別教育活動部の2セクションがある。「生活指導」というと校則を守れない生徒を指導するイメージがあるが、同校の生徒は自由闊達な校風を愛し、学校生活を謳歌する様子で、同センター長と生徒指導部長を兼務する宮川樹里先生も、「もちろん、身だしなみ等を注意することもありますが、それよりも悩みのある生徒や居場所のない生徒を守る部署でありたい」と考えている。
特別教育活動部は学園祭などの学校行事を企画・運営する部署だが、こうした取り組みを生徒の手に委ねているのが特徴だ。特別教育活動部長の峯松容子先生は「高校の生徒会には執行部員が70名近くいて、クラブ活動に近いのです。この生徒会が中心になり、学校行事を運営しています」と話す。
同校の学園祭は、卒業生や保護者、地域の人たちも訪れる盛大なイベントとして楽しまれてきた。その企画からパンフレット作成までを生徒会が中心となり手がける。コロナ禍以来休止や縮小をしてきたが、一昨年は生徒会の発案で中学・高校合同の「スポーツフェスティバル」を実現させた。
実は、その背景には生徒支援センターの先生方の支えがあるのだが、生徒にそう思わせないように、さり気なくサポートしている。大規模な学校行事を「自分たちで創り上げた」という成功体験を貴重な思い出と自信にしてほしいからだ。
「宗教・国際センター」には、宗教教育部と国際交流部の2セクションがある。浄土真宗の教えに基づく人間教育をめざす同校には、仏教に根ざした学校行事があり、そこで生徒は静かで豊かな時間を過ごしている。その一例が、学年単位で行う朝の「講堂礼拝」で、先生方の講話を聴くということだ。
同センター長と宗教教育部長を兼務する山田友能先生は、「流行りの考え方、タイムパフォーマンスに逆行する行事かも知れませんが、他者の話を聞き、これを消化し、思考を深める営みは、生徒が成長する上でとても大切だと考えています」と話す。
一方、国際交流部は生徒の海外体験をサポートし、海外から迎える留学生のケアも担う。これらの活動はコロナ禍のために休止していたが、昨年度は中学3年生が修学旅行でシンガポールに渡航し、今年度は5年ぶりに留学生を迎えるなど、順次、再開している。
これまで、韓国とニュージーランドの姉妹校と交流を重ねてきたのに加え、ハワイとマレーシアの学校とも姉妹校提携を結ぶ準備を進めており、生徒の行き来が、いっそう盛んになりそうだ。
多彩な学校行事や、親身な学習・進路指導、また堅調な大学進学実績が知られるようになり、大谷学園で学びたいという志願者は、中学・高校ともに増加している。
中学校には、国公立大進学を目指す「バタビアコース・マスターJr.クラス」と、難関私立大を志望する「バタビアコース・コアJr.クラス」の2クラスがあり、早くから目的意識をもって学べる学校として人気が高い。
高校入試では例年、志願者が約3000人を数えており、中学から内部進学した生徒と、高校入学の生徒が出会い、新たな友情が生まれている。
英語を楽しみ、使える生徒を育てる
実践授業「5ラウンドシステム」
大谷中学校では2020年度から英語授業に「 5 ラウンドシステム」を導入している。これは、教科書を1年間に5回、繰り返し学習する先進的な方法だ。
ラウンド1では、教科書を読み上げる音源を聴き、その概要を描いたイラストをストーリー順に並べて教科書内容を理解する。ラウンド2では、音源を聴きながらこれを文字化したプリントをストーリー順に並べ、音声と文字を一致させる。ラウンド3で初めて教科書が配布され、音読に挑戦。ラウンド4は、文字プリントの穴埋めをしながらの音読。ラウンド5では、自分の言葉で教科書のストーリーを語る。
この授業をオールイングリッシュで進めるため、生徒たちは英語への抵抗感がなく、積極的に英語を話すようになっていく。英語担当の先生方に手応えを聞いてみた。
「英語が苦手な生徒も臆せず始められて、続けるうちに授業を楽しむようになります」(宮地のぞみ先生)。
「スペルの暗記から始まるのではなく、まず音で英語のシャワーを浴びて吸収するので馴染みやすいようです。英検への意欲も高いですよ」(須藤恭平先生)。
「生徒の方から『もう一度、音源を聴かせて!』と言ってくれます。学びたい気持ちを引き出し、苦手意識を植えつけないなと感じています」(澤井志織先生)。
「自分から話そう、書こうと積極的になってくれて、私たちも授業を楽しんでいます」(崎中颯先生)。
中学校で5ラウンドシステム授業を受けた生徒が、今春、内部進学で高校1年生になった。そのリスニング力や会話力は、高校から入学した生徒にとって良い刺激になっている。
古都の伝統校・大谷中学校・高等学校は、常に新しく、進化し続けながら、再来年の創立150周年に向かっている。
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