マナビネットオープンスクール2023 ●掲載:塾ジャーナル2023年9月号/取材:塾ジャーナル編集部

伝統の校風と教育環境を守り、
新時代の人材を育てる

東大寺学園中学校・高等学校/四天王寺高等学校・四天王寺中学校

生徒の自由を尊重し、個性と自主性を育む中高一貫の男子校・東大寺学園中学校・高等学校。
聖徳太子が設立し、困っている人々を救済する施設を起源とする女子校・四天王寺高等学校・四天王寺中学校。
ともに仏教寺院にルーツがあり、男女別学であり続け、難関大学への高い進学実績を誇るなど、多くの共通項をもつ伝統校だ。東大寺学園の本郷泰弘校長と、四天王寺高等学校・中学校の中川章治校長に、別学のメリットや、それぞれの進路指導方針、今後の展望を語っていただいた。


仏教寺院境内の学び舎から
伝統校の歩みが始まった

まずは両校のはじまりと歩みをお聞かせください。

本郷 本校の前身は、大正時代の1926年に、勤労少年たちの学びたいという希望に応えるために、東大寺の僧侶が手弁当で始めた夜間学校だと聞いています。その後、戦後の学制改革の際に、旧制中学のような学校が欲しいと考える保護者や、リベラルな教育をめざす教師集団が協力して、まずは男子中学校を開校し、1963年に全日制の男子高校を併設したのが現在の東大寺学園の直接的なルーツです。

1986年に現在の場所に移転するまでは、東大寺の境内に校舎があり、夜間学校時代は東大寺の僧侶が教鞭をとっていました。そんなアットホームな雰囲気は今でも息づいています。

中川 私たちは「推古元年(593年)の興りです」と言っておりまして、これは聖徳太子が四天王寺を創設された年です。さらに聖徳太子は四天王寺の境内に4つの施設、敬田院、悲田院、施薬院、療病院を設けました。敬田院は学問を授け、仏法修行を行う施設。悲田院は今で言う福祉施設、施薬院は薬局、療病院は病院です。

いずれも衣食住に困っている人や、病気の人を救済する施設であり、そのための人材を養成したのが本校の原点です。女子学校としてのはじまりは100年前、天王寺高等女学校が開校しました。戦後、女性の社会進出を支えるために進学、とりわけ医療系進学をめざす方向に舵を切りました。現在は医療系進学に限らず、幅広く社会に貢献できる女性を育てようとしています。

男女協働時代の別学教育
その役割や目的は?

全国的に共学化する学校が多い中で、両校は別性教育に取り組み続けておられます。

本郷 ジェンダー平等社会をめざす一方で、性差に応じた教育はあっていいと考えています。特に中学校時代は女子の方が精神年齢の発達が先んじていて、男子は幼い印象を受けますから、本校の中学生たちは共学だったら女子にやり込められるでしょうね(笑)。例えば中高6年間、ロボット制作に熱中する。あるいはこの豊かな自然環境の中で虫を追いかける。

そういう青春時代にしかできないことに、女子の目を気にせず没頭した経験を経て、大学や社会で女性とともに活動をしてもいいだろうと思います。

中川 本校の生徒も「女子校は気楽でいい」と言います。格好いい男子がいたら、体育祭で転んだら恥ずかしい、文化祭の大工仕事は力のある男子に任せようとなるかも知れないですが、いないから全力で責任感をもって取り組みますし、チャレンジ精神が育ちます。女子教育の歴史は、性差のために教育を受ける機会を逃しがちだった不公平を是正するためにはじまりました。

その甲斐あって、男女が同じ教育を共有できるようになりましたが、今も私たちが女子教育に取り組み続けるのは、まだ社会は男性の視点で決めたルールや仕組みがありますので、本当に女性の力を活かせる、女性リーダーを育てるという新しいステージの女子教育をめざしています。

合格者数を競うのではなく
めざす将来の実現につながる進路指導

両校ともに全国区の有名進学校です。どのように実績を伸ばしてこられたのでしょうか。

本郷 本校が有名になったのは、1987年に国公立大学の2次試験がA日程とB日程に分けられて、複数回受験が可能だった際、東京大学と京都大学を両方とも受けられたので、京都大学志望の生徒が「東大も受けてみようか」と受けたら、たくさん合格したのがきっかけです。あとは、高校生クイズ選手権で優勝したのが大きいのではないかと(笑)。

私たちは京都大学や東京大学の合格者数に一喜一憂することはありませんし、生徒にどこの大学を受けなさいとも言いません。生徒から相談されれば応えますが、進路は生徒自身が考えて実現すべきことです。

もちろん、学校ですから学力を充実させることは大切ですが、その目標は大学入試突破ではなく、大学に入学してからの学問研究に資する力や、もっと知りたいという探究心、自ら課題を見つけて考え、対処する自主性を身につけさせることです。それは大学を卒業して働いていくうえでも大切なことですから。

四天王寺高等学校・中学校は医歯薬系進学に強い伝統がありますね。

中川 本校がそうなった背景には、女性は結婚や出産でキャリアの中断を余儀なくされがちな実情があります。ですから結婚・出産を経ても社会参加し続けたいと考える女子生徒は、どうしても資格を取得できる医療系、文系であれば法学部系を志望することが多かったのです。

しかし今は大学の学部も多様化して、工学系・情報系学部などは学びの環境がとても充実していますから、いろいろな大学を見学し、志望校や将来の目標を見つけてもらいたいと考えています。私たちの建学の精神は一人ひとりの個性を伸ばすことですし、幅広い分野で活躍してくれるのが願いですから。

大学入試の多様化で、合格枠が拡大している推薦入試や総合型選抜(旧AO入試)には対応されていますか。

本郷 必ず一般入試で合格させようとは考えていません。在校中にさまざまな活動やチャレンジをした生徒が、その成果を活かせる入試を選んでかまわないと思います。

ただし、欧米の本格的なAO入試のように、多くの専門職員が膨大な時間を費やして面接を重ね、論文や活動実績を精査する制度は、わが国では当面、実現しないでしょう。この現状であれば、一般入試に対応できる力を身につけて進路を実現するのが最善策だと考えています。

中川 本校の場合、推薦入試や総合型選抜に推せる生徒は、模擬国連や生物学オリンピックに参加するようなハイレベルな実績のある生徒です。

本郷 そういう生徒は一般入試でも通りますよね。

中川 そうなのです。ですから、最初から推薦入試や総合型選抜に絞るのではなく、その枠で早い時期に合格が決まれば結構なことだし、うまくいかなかった場合には一般入試で再チャレンジできるという、受験機会が増えたという感覚で捉えています。

最後に今後の展望をお聞かせください。

本郷 本校は今年度から高校募集をやめて、完全中高一貫校に移行します。6年間かけて独自のカリキュラムを実践しようというポジティブな発想で出した結論です。一方で、高校から入学した生徒と中学校から内部進学した生徒が出会い、切磋琢磨する刺激的な機会がなくなるのが課題です。

中だるみを招かないように、例えば中学3年時に卒業制作に取り組ませるといった、探究心に結びつくことができればと考えています。私は今年4月に校長に就任したので、よく「新しく手がけたいことは?」と聞かれますが、この学校の良さを維持することが仕事だと思っています。時代の流れに対応しなければならないこともありますが、東大寺学園の伝統の精神を守っていきたいです。

中川 私も同じ考えです。ICT化や国際化を進める一方で、生徒たちにいろいろな経験を積んでもらいながら、失敗しても挑戦し、目標に向かって真面目に努力し続ける、本校の気風や文化を守り続けたいです。それが私学の良さであり、それぞれの学校らしさになっていくのだと思います。

本日はありがとうございました。


東大寺学園中学校・高等学校 https://www.tdj.ac.jp/
四天王寺高等学校・四天王寺中学校 https://www.shitennoji.ed.jp/stnnj/