マナビネットオープンスクール2024 ●掲載:塾ジャーナル2024年9月号/取材:塾ジャーナル編集部

人間力・学力をバランスよく伸ばす
親鸞聖人の教えに学ぶ教育は150年の伝統

大谷中学校・高等学校

学び舎は紅葉の名所として全国的に著名な「東福寺」のほど近く。JR京都駅からも徒歩圏にある大谷中学・高等学校は、親鸞聖人の教えを受け継ぐ真宗大谷派の伝統校で、来年創立150周年を迎える。近年は国公立大学や難関私立大学への合格者数の伸びがめざましいことでも注目され、高校の志願者数は約3000人、競争率7倍超という関西屈指の人気校でもある。今春、26代目校長に就任した乾文雄先生をお訪ねし、あらためて同校の特長や、150周年への思いなどをうかがった。


9割が国公立大合格の「マスタークラス」
ただし、進路実績だけの学校ではない

2024年度の大学入試では、大谷高校からは京大、阪大をはじめ国公立大学に97名が合格した(既卒含む)。大半が難関国公立大学への進学をめざす「バタビアコース・マスタークラス」の現役生で、実に「クラスの約9割が国公立大学合格」という進路実績を誇る。

受験指導専門の学外講師による「AIゼミ」や、「atama+」を用いた苦手分野の克服「Plus Otani」などの取り組みが合格率アップに寄与したことであろう。しかし乾校長は声高に言う。

「進路実績を上げることが目標なのではなく、あくまで生徒と教職員が頑張った結果であって、高校は中学と大学をつなぐ単なるパイプではありません。宗教を学ぶことで人間力を磨きながら学力を高める、つまりバランスよく“二兎を追う教育”を150年ものあいだブレずに続けてきた……大谷とは、そういう学び舎です」

学校理念「樹心~人と成る~TO BE HUMAN」は、親鸞聖人の言葉「樹心弘誓仏地」に由来する。広い視野をもって自分の現在地を知り、大地にしっかりと根をはる樹木のように人生の拠り所に心の根をおろし、目標を見誤ることなく生きていこう、といった意味だ。初代校長が「人間が安心して生きていくためには、必ず拠り所が必要」との思いから、この言葉を選んだという。

現在も中学で宗教の教鞭をとる乾校長は、中1生に「あなたが40歳を迎えたとき、どんな人でありたいですか?」と聞く時間を必ず設けている。“どんな人”とは、職種や地位、学歴、財産、名声などを取り払った“素の自分”がどうであるかを問うている。正直な人、粘り強い人、見て見ぬふりができない人などいろいろな意見が出た。

「どのような道を選び、どのような職に就き、どのような立場・役割を任されようとも、与えられた環境の下で自分のできることを一生懸命にやる人になってほしい。大谷で過ごす3年間・6年間は、仲間や教職員、親御さんとともにこの問いに向き合い、学ぶ時間にしてほしいです」

中高一貫コースは目的別に3クラス
推薦枠1000超の「インテグラル」は
現役進学率 97%

20世紀初頭に米ニューヨーク州バタビア市で開発された複数の教員による手厚い学習指導法を、同校は1960年に日本で初めて導入した。教科担当が授業を進めるなかで、クラス担任が教室全体を見守り、学習につまずいている生徒には個別指導する。現在も中学で実施しており、中高一貫コースにはその名が残る。

そのバタビアコースは、高校で目的別に3つのクラスに分かれる。

国公立大学への進学を希望する生徒を対象にした特進クラス「バタビアコース・マスタークラス」は、6教科8(9)科目の国公立大学受験対応型のカリキュラム。先取り学習で高校3年間の履修を高2修了までにこなし、最終学年はじっくり受験対策に取り組む。2024年度の国公立大学への現役合格率は89・3%だった。内部進学生は高校の学習を先取りしているため、高1では外部からの編入生とは別カリキュラムとしている。他コースに比べ勉強量が多いが、クラブ活動と両立させている生徒も少なくない。

「バタビアコース・コアクラス」は、3教科受験型の難関私立大学から6教科受験型の国公立大学進学を希望する生徒を対象とした特進クラス。一人ひとりの学習レベルに合わせ、国数英の一部の授業で習熟度別クラスを編成している。ここ数年は、4年生大学への進学者のうち約5割が一般選抜、約3割が公募制推薦という傾向だが、「2024年度は公募制で一定の成果を挙げ、一般選抜で一段階レベルが高い志望校をめざす生徒が多かった」という。

2019年度に新設した「バタビアコース・グローバルクラス」は、模擬国連活動と国際的な学びを大きな柱に、自国だけではなく地球規模で考える力を身につける。3年間で2回の留学機会があり、語学力だけではなく、自らの手でさまざまな困難を切り開く力や、発信力を養う。グローバルといっても、医療関係、芸術、心理学、社会学…とめざす進路はまちまちで、志望校も国公立大学、難関私立大学、海外留学と幅広い。

「インテグラルコース」は中高一貫ではないが、もちろん内部進学もできる。1000を超える指定校・協定校の推薦枠を確保し、現役進学率は約97%。国公立大学への進学も4年連続で継続中。

2年生への進級時に一定水準以上の学力が認められると、バタビアコース・コアクラスからバタビアコース・マスタークラス、インテグラルコースからバタビアコース・コアクラスへの編入も可能だ。

5つの指定クラブは高校総体等で実績
競技かるた部、軽音楽部も全国区

硬式野球部、サッカー部、男子バレーボール部、男子バスケットボール部、女子ハンドボール部の5つを指定クラブとして強化に励む同校。その甲斐あって今年度に入ってからも、サッカー部と女子ハンドボール部はともにインターハイ京都府予選で準優勝、全国大会の切符までもう少しだった。男子バレーボール部も京都府新人戦で3位という成績を収めている。

「サッカー部の決勝戦は地元のJ1チーム『京都サンガ』のホームスタジアムで行われました。これ自体、出場する彼らにとって貴重な体験だったと思いますが、せっかくなので初めての試みで応援グッズをつくって大応援団を編成しようと考えました。当初500人くらいのつもりが倍の1000人近くが集まり、『あれだけ応援してもらえる学校でサッカーをしたい』といった声も聞かれました」

運動部だけではない。競技かるた部は7月に開催された「第46回高校選手権大会」で、団体戦の京都府代表として全国大会に出場。3回戦まで進んだ。決戦の場所はかるたの聖地・近江神宮。テレビの密着取材もあり、放映されるやいなや大反響だったという。「わたしも応援に行ったのですが、ここでもまた『京都でかるたをやりたいから大谷に行きたい』と言ってくれる子がいて、うれしかったですね」と乾校長は笑みを浮かべる。

さらに、軽音楽部からは卒業生がオーディション番組を経て、11人組のガールズグループ「ME:I(ミーアイ)」のボーカルとして今春デビュー。同世代で大きな話題となっており、「わたしも大谷で軽音やりたい!」という声が続出しているという。進路実績に加え、こういったクラブの活躍が同校の人気に拍車をかけているようだ。

指定クラブ員には実技の向上はもちろん、部活動以外のところでも周りを巻き込んで盛り上げ、みんなを引っ張っていってもらいたいとの期待が込められている。それを象徴するように、1学期の終業式では乾校長の発案によるサプライズ壮行会が行われた。いつもは生徒会が各クラブの活動結果をたんたんと発表して終わるところに、予め打ち合わせしたサッカー部員が突然前に出て「俺たちはもっと応援したいんやー! フレー、フレー、大谷!」と叫んだのだ。

「いつも応援されている側が応援する側になって、みんなに応援されるありがたさを知ってもらいたかったのです。帰属意識が生まれたのでしょうか、そのあとの校歌斉唱も今までにないくらい大きな声でした。みんながひとつになっていく瞬間が見えました。中1生なんかワクワクした顔で見ていました。学校生活にはワクワク感が絶対必要です。その結果、学力が向上したり、強いクラブになったり、家の手伝いを自主的にしたり……これらはすべて“結果”なのです。この壮行会も継続していこうと思っています」

定員割れ時代を経て建学理念に回帰
宗教に根ざした教育が大谷の存在意義

京都府や国の就学支援制度も大きな力となり、今でこそ超人気校となった同校だが、20年ほど前は定員割れが続く時代もあった。

教職員が集まって対策を練るなかで、「宗教立の学校というイメージがよくないのでは」という意見が主流となり、学校案内や説明会から宗教色を消したこともあったが、効果はそれほどなかった。そんなとき、ある若い教員のひと言がこの流れを変えた。

「今でも鮮明に覚えています。公立校出身の教員だったのですが、『どうしてうちの学校は宗教立の学校であることを前面に出してアピールしないのですか? 今この時代に、心の問題を学べる学校を生徒も保護者もきっと求めておられると思う』と素朴な疑問を投げかけたのです。口には出さなかったけれど、実はそう思っていた教員が大半で、『そうだ、そうだ』となりました。宗教色を消すということは、大谷の存在意義を自ら否定すること。つまり、拠り所を見失っていたんですね。その時点で創立から130年以上続いていた学校です。きっとそれには意味があるはずで、『建学の理念に回帰しよう』という空気になりました」

以降、学校説明会のパンフレットの冒頭には必ず、真宗大谷派の本山である東本願寺の紹介を入れている。

来年、いよいよ創立150周年を迎える。140周年時には実行委員長として運営の指揮を執っていた乾校長が、校長となっての初仕事が150周年準備委員会の立ち上げだった。式典テーマは、学校理念である「樹心」に決まった。

「もう一度、大谷中学校・高等学校がどういう学校であるかを再確認する場にしようと思います。縁があって、ここに集う人たちみんなが元気になる式典にしたいですね」


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大谷中学校・高等学校 https://www.otani.ed.jp/