体験重視の新プログラムが全学年で始動
将来の社会を担う人材を育成
大阪信愛学院中学校高等学校
2年生は「ブリティッシュヒルズ」(福島県)で日本にいながら海外体験
社会の変化に合わせ、約10年ごとに見直されている学習指導要領。今回の改訂では知識の詰め込みから舵を切り、学校で学んだことを将来の「生きる力」につなげることに主眼を置いた。2020年度の小学校を皮切りに、2021年度は中学、2022年度は高校と新カリキュラムへの転換が進められている。大阪信愛学院中学校では、こういった動きに敏感に対応し、すでに3年前から教育改革を推進。今年度から全学年で新しいプログラムによる教育体制が整った。このプログラム作成にあたって中心的な役割を果たされた中学校主任の藤林好美先生に話を聞いた。
段階的に体験を積む語学研修で
楽しみながら実践的な英会話力を養う
中学校の新カリキュラムで大きく変わるのは英語とプログラミングだ。英語では、授業は外国語で行うことが基本となり、学習した語彙や表現を使って互いの考えや気持ちを伝え合うなどの実技的な活動を重視する。この方針を受け、同校では学年ごとに段階を踏んだ語学研修を全員参加で実施することにした。
「まず、中学3年生で海外に行かせてあげたいというのが出発点です。体力的なことも考えて約3時間で行け、英語が通じ、英語を第二言語とする台湾に3泊することにしました。ただ、いきなり日本語が通じない相手とコミュニケーションをとることは無理なので、それまでにやっておくべきことを逆算的に考え、2年生では冬に国内の『ブリティッシュヒルズ』(福島県)に2泊します。
“パスポートのいらない英国”が謳い文句の語学研修施設で、中世英国の生活様式を肌で感じながら英語環境に馴染んでもらいます。そして1年生は、入学早々の4月に友達づくりも兼ねて大阪市内の『YOLO BASE』で1泊し、さまざまな国籍の外国人と交流させます」
きめ細かい教育を特長とする同校。『YOLO BASE』では研修の意図を施設側に説明し、「協力しあって仲良くなれるようにチームビルディングを入れる」「講師は生徒数人にひとり」「毎食違う国の食事を提供(保護者の了解済み)」などをリクエストして独自のプログラムに仕上げた。
1年生は大阪市内の「YOLO BASE」で1泊研修
「英語は楽しいものということを体験してもらいたい」との狙い通り、研修を終えた生徒たちはハイテンションで、研修時の写真には、たくさんの笑顔あふれる生徒たちの姿があった。
市内で1泊、国内で2泊、海外で3泊と徐々にコミュニティを広げながら体験を積むことは、生徒が英語コミュニケーション能力を培うと同時に保護者が子どもから自然と手を放すことにも役立っている。
「今の子どもたちは、体験して自己評価しながら課題解決を考えなければいけない世代で、ある意味 “放置”も必要です。段階を踏んで保護者との信頼関係を築いていくので、海外で3泊となっても安心して子どもを送り出していただけるこの方法が理想的だと思います」
さらに同校では授業を補うかたちで、4年前からオンライン英会話、昨年からスタディサプリENGLISHも活用。「授業だけでは先生と直接話す時間が圧倒的に少ないため、オンライン英会話を導入しました。おとなしい生徒でもマンツーマンで約20分話せます。話す相手が、オンライン英会話は人であるのに対し、スタディサプリは機械。たとえ間違っても機械は笑わないので恥ずかしくないという利点があります。
しかも映像がキレイで目に楽しく、正解すると鳴る音に子どもは喜びます。オンライン英会話とスタディサプリで生徒が英語に臆することがなくなりました」と胸を張る藤林先生。昨年の英検で中2生が準1級に合格、その効果を裏付けている。
中高一貫の特性を生かし
プログラミングは前倒しで学習
同校ではIT社会を見据えて4年前からすでに中高全生徒がタブレットを所有し授業で活用している。「タイピングが重要なので、当初からキーボードを付けての授業にこだわった」といい、新カリキュラムにプログラミングが登場しても慌てた様子はない。ソフトを導入し、週1時間、SHIN‐AI講座の時間を利用して少しずつトレーニングしている(現時点では学際コースのみ)。
「今年入学した1年生は、まずホームポジションから始め2ヵ月かけてタッチタイピングを習得、6月からコード入力によるプログラミングの学習に移りました。学年末には簡単なホームページを作成して発表するところまで持っていきたいと考えています。本格的なプログラミングを学ぶ高校に備え、中学は準備期間。その点、当校は中高一貫なので、前倒しでやっています」
2年生は昨年コロナの影響で予定通り授業が進まなかったため、1年生のカリキュラムを復習しながら進めている。また、3年生は大学入学共通テストにプログラミングを含む「情報」科目が新しく追加される学年であることから、今後発表される高校の新カリキュラムで、どういう能力を求められているのかを見極めたうえで授業に落とし込んでいく考えだ。
(左)7月13日に実施した中学2年生の職場体験授業(菅公学生服株式会社)
(右)1人1台所持するタブレットでタイピング練習
大学・職場・農業
体験授業で主体性と豊かな心を育む
中3で大学体験、中2で職場体験、中1で農業体験と体験授業を充実させているのも同校の新しい取り組みだ。これも全員参加とし、主体性と豊かな心を育んでいる。
大学体験は、文系・理系それぞれ1校ずつ選択し、『学問とはどういうものか』『理系(文系)であっても文系(理系)の知識は必要』など、こちらの狙いを業者と先方の先生方に伝えて実施しています。職場体験は今年初めて実施しました。
朝礼でのスピーチ体験や、幅広い年齢層の人が一緒になって働いている現場を体感してもらい、オリジナル作品の製作にも挑んでもらいました。楽しかったようで、お礼の手紙を書いていましたよ。農業体験は、わたしたちの食を支える大事な産業なのに今は成り手がいないという現状も知ってもらおうと去年から南大阪の農家さんに協力をお願いしています。
残念ながらコロナ禍で実施できていませんが、代わりに校内で作物の植え付けから収穫までを体験しました。
3年の時間をかけ、必要に応じて追加したりそぎ落としたりしながらブラッシュアップしてきた新プログラムが全学年でそろった。来年度から共学となり、高校ではコースが3つに再編される同校。不易流行―信愛教育の根幹である「心を育てる教育」「一人ひとりにきめ細かく目の行き届いた教育」は今後も変わらない。
大阪信愛学院中学校高等学校 http://www.osaka-shinai.ac.jp