マナビネットオープンスクール2021 ●掲載:塾ジャーナル2021年7月号/取材:塾ジャーナル編集部

コロナ禍でも学園祭ができることを証明
困難を受け入れながら走り抜けた半年間

帝塚山中学校・高等学校

ソーシャルディスタンスを気遣いながら準備を進めて、最大限のパフォーマンスを発揮した学園祭


新型コロナウイルスとの共存を余儀なくされている現代。その中で、帝塚山中学校高等学校はこの4月に学園祭を敢行した。「コロナに負けない!」強い思いを持つ生徒会長と実行委員長を中心に、何度もトライアンドエラーを繰り返しながら、ギリギリまでプログラムを練った。開催実現のために走り回る実行委員たちの熱い思いが他の生徒たちにも伝わり、2日間の開催期間は無事終了した。中川イリヤ生徒会長・加藤真輝実行委員長、そして彼らを支えた生徒会顧問の先生方に、コロナ禍中で実現した学園祭への思いを聞いた。


コロナ禍だからこそできること・
学べることがある

帝塚山中学校高等学校の学園祭は、毎年4月の終わりに行われる。国公立や難関私立、医療系大学への進学率が高い一方、行事も盛んだ。受験を控える高3生徒もしっかり参加できるよう、20年以上前に4月開催に変更となった。

学園祭の準備は生徒役員選挙がある前年の9月から始まる。昨年は新型コロナによる全国的な休校で、学園祭は中止となった。前生徒会と半年間積み上げてきた準備が、なすすべもなく徒労に終わったことを昨年の生徒会顧問の北田創先生(本年度高校生徒指導副部長)は悔しがる。
「何ひとつ対応できないまま終わってしまい、顧問としては本当に悔しく、生徒たちにも申し訳ないという強い気持ちがありました。それを踏まえ、今回の開催にあたり、【如何に負けるか】という視点を持って常に準備してきました。新型コロナに対して世界中が日々対応に追われる中で、本校だけ対応できるなんてことはあり得ない。『良い勝ち方』があるように『良い負け方』もあるのではないかと考え、当日もし急に学園祭が中止になったとしても、皆に『何かが残る』学園祭にしようと思っていました」

生徒会長の中川イリヤさんは、中学から生徒会に関わってきた。中学2年生で見たステージに憧れ、“目指す学園祭像”が明確だったが、大きな制約の中で再構築せざるを得なかった。飲食系の模擬店は出店不可、密になる可能性のあるステージも難しい。
「ステージは絶対成り立たせて、模擬店は代わりになるものをつくる。一度なくすと次に同じものをつくるのは難しいので、必要なら変えて、とにかく学園祭は絶対成功させる! と考えていました」

実行委員長の加藤真輝さんは高校から帝塚山に。実質2回目の学園祭で実行委員長となった。
「コロナ対策をした学園祭の実績は、ネットで調べても出てこない。もちろん学祭スタッフ全員、何もわからない。手探り状態で企画をつくり上げても、コロナ対策が難しいと判断されれば白紙になる。準備期間の半年間、ずっとそれが続いたんです」

前例のない学園祭に取り組んだスタッフたち。参加方法も大きく変わり、ステージは高校生のみ観客として参加、中学生は教室へ配信というかたちに。そのため、中1から高3まで全学年をつなぐ共通のイベントがつくられた。中学生に例年のステージの様子を伝えるべく、有志でつくったバンドを登場させるなどしたが、タイムテーブルはなかなか埋まらない。開催4日前、中川さんは自ら幹部数名とバンドを結成。当日の朝まで始発で学校に行き練習を重ねた。

否定的な声。開催直前のピンチ
それでも前を向き続けた

学園祭の開催には、さまざまな声が上がった。SNSでは開催に否定的な言葉が否応なしに目についた。中川さんは心を痛めながらも、開催一ヵ月前から『あなたの周りにも学園祭をつくろうとしている人がいるはず。その人たちに感謝をして当日を迎えて欲しい』と発信し続けた。

すると後輩たちが開催への感謝を伝えに来てくれた。「気づいてくれたことが本当に嬉しかった。最後の一週間はほぼ寝てなかったんですけど、絶対最後までやり抜く! ってがむしゃらに動いていました」
開催日前日にはスタッフ全員が呼ばれ、ステージへの観客動員の中止を告げられた。中川さんは観客ありきでタイムスケジュールを組み、しかも皆が楽しめるようにと何度も組み直していた。ショックで目の前が真っ暗になった。

加藤さんのもとに、ステージに上がる後輩たちが何人も来た。泣きながら観客の動員を頼んでくる。緊急事態宣言も出た中では、いち生徒の力では難しい。そう伝えると、みんな泣き崩れていった。
ステージが急遽、無観客かつ配信のみとなり、そこからはとにかく時間との勝負だった。

「当日になっても未完成。私は全ステージの監視をしながら、本番直前までさまざまなことを同時進行しました。それでも今回、“バンドを組んで4日でもこれだけできる”というのを見せることができ、結果的に参加者から『すごかった!』と声をかけてもらったので、本当に嬉しかったです」(中川さん)


加藤 真輝 実行委員長と中川 イリヤ 生徒会長

未来につなげるために
これからがスタート

幾多の難関を乗り越えて開催することができた学園祭。やりきった関係者の顔は明るい。
「私は学園祭を絶対元に戻す! と決めています。私たちがコロナじゃない学園祭を実行した最後の代なので、元の学園祭にするためだったら、大学生になっても、何歳になっても、何年先の生徒会でも全力で手伝いたい」(中川さん)

「泣いていた後輩が、後で『カメラの前でも踊れたことは嬉しかった。来年もがんばるので、自分を責めないでください』と言ってくれた。今回僕の中では、“コロナに負けた学園祭”にしないことが重要でした。コロナがあってもここまでできるということを、みんながわかってくれるといい。僕らがつくり上げたものを引き継いで、さらに良い学園祭にしていってほしい」(加藤さん)

「ステージに観客動員できないことが前日に決まったのですが、それでもやれることを精一杯やった。昨年の中学生徒会の顧問だった片岡健二先生(本年度高校生徒会顧問)にも本当に助けられました。そういう面で、今回【良い負け方】ができたと思います。絶対次につながるし、やはり次は勝ちたいという気持ちが起こってくる。そういう思いが先へとつながっていけばいいと思っています」(北田先生)

開校から80年。常に挑戦し続ける本校は、コロナ禍での学園祭を成功させた。“やりたいことはなんでもできる”最高の環境を与えられた生徒たちはどんどん開花し、すさまじい成長を遂げる。これからも帝塚山中学校高等学校は社会のリーダーとなる人材を輩出していく。

帝塚山中学校・高等学校  https://www.tezukayama-h.ed.jp/