強力な学びのトリガー「アサインメント」で
自ら学びを追い求める生徒の姿を実現
ドルトン東京学園中等部・高等部
開校5年目を迎えたドルトン東京学園中等部・高等部。生徒たちは日々「学びの楽しさ」に存分にひたりながら、それぞれの学びに没頭している。この学びの姿勢の起点となっているのは、生徒の内に湧き上がる興味だ。この興味にしたがって「何で?」「面白い!」「もっと知りたい!」と、自ら学びを計画していくことで、学びは「やらされる」ものから「やりたい」ものへと姿を変えていく。生徒自らがワクワクと学びを追い求めるための強力な仕組み、「アサインメント」について詳説する。
生徒が学び方を決める
「アサインメント」
「ドルトンの学びでもっとも大切にされているのは、自分発信であること。その意味でも、アサインメントはドルトンの学びの『一丁目一番地』といえますね」と、安居長敏校長は語る。
ドルトン東京学園では、ただ与えられたことを、与えられた順序で学ぶという教育は行っていない。「何をどう学ぶか」を自分事としてとらえ、計画するところから、生徒の学びは始まる。学習の初めに取り組むこの段階が「アサインメント」の要。いつ、何を、どう学習するかを生徒自身がアサインする=割り当てるということだ。
「教科書はいわば学びの『最大公約数』。ここに合わせると、どうしても生徒一人ひとりの興味が置き去りになってしまうのです。学びの起点は、生徒一人ひとりであるべきですから」。数学科の金行将浩先生は言葉を継ぐ。「年間を通じて最低限何を学んでほしいかという、コンテンツの概要などは初めに明示します。
これらを見越しつつ、生徒は学ぶ順序や方法などの『学び方』を自分で決定していきます。このアサインメントの考え方や方法は、教科や教師によってさまざまなのも面白いところですね」。
生徒の興味に着火し
学びを自分事に
では、例えば金行先生の担当する数学では、生徒はどのように「学び方」を決めていくのだろうか。
「まず、授業の流れや年間を通じておさえたい学習内容などが概観できる小冊子を配布し、1年間の見通しをもちます。私が担当する中等部1年では、週5時間のうち1時間“自学の時間”を設けており、そこでは生徒各々が、単元ごとに作られたアサインメント用の小冊子を見ながら、『何をどう学ぶか』という具体的な計画を立て、学習を進めます。
単元ごとの冊子には、興味をもたせる導入に始まり、学習の目標や身につけたいこと、スケジュール、評価のしかたなどがまとまっています。学習する前に身につけておきたいことも明示されているため、『おもしろそうだし、今の私の力なら次はこれができそう』など、学びの計画を立てるのに役立ちます」と、金行先生。
安居校長の話にもつながるが、アサインメントの一番の肝は、学習内容に生徒自身が興味をもつことだ。それによって学びが自分事になりさえすれば、生徒たちは自らワクワクと課題を見つけて解決していく。金行先生の数学では、「いかに身近に感じられるか」をコンセプトに、豆知識などの小話をはじめ、さまざまな導入が設定されている。
「『正負の数』の単元では、ゴルフのスコアがちょうど『+』や『-』で表現されることから、鉛筆を使ったゲームを設定しました。立てた鉛筆の頭を指で押し倒しながら、芯を紙にすべらせて線を書きます。スタート地点からその線をつなげていき、何回でゴールできるかな、というゲームです。ゴールに着くまでの規定回数を設定しておき、自分は1回多かった、私は2回少なかった、と自然に正負の数にふれるわけですね」。
また、興味深いことに、アサインメントは数学が苦手な生徒にとっての「学びのセーフティネット」にもなっていると、金行先生は指摘する。「最低限これを学べばいいんだ」という見通しが生徒自身にとって明確になるとともに、教師のフォローも行いやすいためだ。さらに、外部に対して「何をどう学ぶか」を説明しやすいメリットもあり、保護者の安心にもつながっている。
大人の価値観を押し付けず
生徒発信で考える
変化を求める時代だからこそ教育も変革を、と声高に叫ばれながら、日本の教育は3、40年もの間ほとんど変わっていない。「多くの大人からすれば、今の教育環境を変える必要性が少ないということでしょう」と、安居校長は憂慮する。
「スマホやAIなど、リアルな社会に出てしまえば、使用を制限することは不可能です。大人の価値観を画一的に押し付けるのではなく、いかによりよくこれらの技術と関わっていくか、生徒自身が考えるべきです。大人はつい想像できないものへの不安や恐れからブレーキをかけがちですが、むしろ『新しい学びの武器を手に入れた!』と前向きにとらえたいものです」。
実際にドルトン東京学園では、生徒がChatGPTを使っているのを見た美術教師が、すぐ先生方に呼びかけて自主的な勉強会を開き、授業への取り入れ方を各教科で模索したという。しがらみに囚われないそんな教師たちの姿も、生徒たちの将来へのビジョンに大きな影響を与えているに違いない。「何をどう学ぶか」は、本来、自由に考えてよいことだ。
取材を終え、入試・広報担当部長で社会科の髙野淳一先生に校舎を案内していただいた。「アサインメント」で計画された学びは、最後に作品やレポートなど多種多様な形でアウトプットされる。この成果物は廊下や図書館などに展示され、他の多くの生徒への刺激となっている。「アウトプットはとても大切です。身についた知識や能力をどう使って何を伝えるかは、ペーパーテストだけでは評価できません。
それに生徒にとっても、自分の学びがその授業や教室の中で終わるのではなく、必ず何かにつながっているという実感が得られます」と、髙野先生は指摘する。
自由で個性あふれる成果物を前に、安居校長の言葉が蘇る。「将来のために今がまんするのではなく、今が楽しいから将来が見つかるのです。想像がつかない不安があっても、いいじゃないですか」。翼を得た生徒たちは、ドルトンから社会へと縦横無尽に羽ばたいていく。
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